2019 Fiscal Year Research-status Report
日本と東南アジアの互助ネットワークの民俗社会学的国際比較研究
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15K03860
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Research Institution | Ryutsu Keizai University |
Principal Investigator |
恩田 守雄 流通経済大学, 社会学部, 教授 (00254897)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 互酬的行為 / 再分配的行為 / 支援(援助)的行為 / ゴトンロヨン(相互扶助) / ドュイットウンディ<クトュ>(金融互助) / 自生的な社会秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は日本の互助慣行をマレーシアと比較し相違点と類似点を明らかにすることであるが、このため両国の互助関連の文献を精読し現地調査を行った。令和元(2019)年8月にメラカ(マラッカ)州の農村漁村で聞き取り(半構造化インタビュー)を実施した。 メラカ州の農村ではTanaman Padi Berkelompok(Tanamanは収穫、Padiは米、Berkelompokは組の意味)という日本のユイ組にあたる6人から7人でする稲刈りの組織があったが、今は機械化や後継者不足からないところが多い。しかしまだ現存する農村もある。漁村では二人乗りの船で家族や友人で行うため、またココナッツ農園でもユイ(互酬的行為)のような労力交換の慣行はない。 日本のモヤイ(再分配的行為)に当たる共同作業(労力モヤイ)では、漁村でインドネシアと同じゴトンロヨンの精神で漁民が年3回港の掃除などをする。他に河川の清掃関係では州レベルの組織がある。農村では共有地はなく、漁村では海岸や森は州の土地で勝手に木を伐採できない。墓地やモスクなどの清掃はボランティアでするためペナルティ(過怠金)はない。日本の頼母子や無尽に相当する金銭モヤイでは金融互助の言葉として、年配の人が多く使うduit undi(duitは金、undiは「選ぶ」意味)、若い人が使うduit kutu(kutuはダニ<血を吸う>の意味)があり原則利息がつかない。支援(援助)的行為としてのテツダイでは葬儀で葬式組が活動し、婚儀では料理などの手助けをするルワング(rewang)という行為に基づく互助ネットワークが機能している。 農村では共有地が見られず共有意識は希薄で、全体として互助慣行はかつての日本ほど強くないことがわかる。今後近代化によってさらに互助ネットワークは変容を余儀なくされるが、自生的な社会秩序としての互助慣行を注視していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2(2020)年3月に予定していた東マレーシアのサバ州とサラワク州の現地調査は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う海外渡航の自粛により中止せざるを得なくなり、ボルネオの互助慣行について十分な分析ができなかった。研究期間が1年間延長されたため、今年度の8月に日本との比較研究のため現地調査を予定している。なお平成30(2018)年度の研究成果として、南太平洋(パラオ、ポンペイ)の互助慣行については当該年度の調査(平成31年3月)を含める必要があり、翌年度に論文を完成させた(令和元年10月刊行の本務校紀要)。またその成果を日本社会学会で発表した(令和元年10月)。さらに同年9月には経済社会学会でフィリピン、インドネシア、タイの金融互助を日本と比較しながら報告し、同年8月に実施したメラカ州の現地調査を踏まえマレーシアの小口金融についてもふれた。本年度研究完了予定だったマレーシアの互助慣行については前述の理由により研究期間が延長されたため、学会報告は令和2年11月に予定しているが(日本社会学会)、論文は紀要発行年が10月と翌年3月のため8月予定の東マレーシアの調査を入れると10月分には間に合わないため、翌年の令和3年3月刊行分としてまとめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間の延長に伴いマレーシアの互助慣行については、令和2(2020)年の8月に現地調査を予定している。令和元(2019)年8月に行ったメラカ(マラッカ)州の聞き取り(半構造化インタビュー)のまとめと合わせ文献や資料の精査を通して、マレーシアと日本の互助慣行の比較またその制度の普遍性と固有性について検討する。この研究成果は既述したように本務校紀要(令和3年3月刊行)に投稿し、日本社会学会(令和2年11月)にて報告する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う海外渡航の自粛により東マレーシア(ボルネオ)の調査を中止し、この調査に関わる航空運賃、現地宿泊代、通訳代などが当該年度に支出されずに残ったため、次年度にその調査分の支出を予定している。
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Research Products
(3 results)