2016 Fiscal Year Research-status Report
生きられたアナーキズムの文化実践:自律空間の創出とサブシステンス
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15K03872
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
澁谷 望 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (30277800)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田原 琳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (70466910)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | コモンズ / アナーキズム / サブシステンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1990 年代から世界の大都市に広がっているアウトノミア系アナーキズム運動の文化実践的、サブシステンス的、情動的側面を解明することを通じて、現代社会におけるアウトノミア系アナーキズム運動の実践可能性の諸条件と、これを通じて資本主義社会へのオルタナティヴの諸原理を明らかにすることを目的にする。 本年度は、理論的研究としては(1)情動的側面からラディカル・デモクラシーとアウトノミア系運動の共通点についての研究、(2)シルヴィア・フェデリーチの主著『キャリバンと魔女』(以文社、2017)の翻訳刊行を通じて、女性によるコモンズの維持・創出の実践とそれに対する反動についての歴史的・理論的研究を行った。(1)に関しては、ジュディス・バトラーのメランコリー論を参照し、悲しみの共有が運動の重要なモメントとなっている点を検討した。(2)に関しては、「魔女」の形象のなかに家父長制と資本主義に回収されない「ケアの共同性」の可能性条件を探る作業を行った。 フィールド調査としては、オーストラリア(シドニーとウロンゴン)およびジョクジャカルタにおいて、都市コミューンの記憶の掘り起こしの実践の聞き取り調査を行った。 また、2月19日に東京外国語大学で行ったワークショップ「魔女とナウトピア――脱資本主義のパラレルワールド」において、これまでの議論の集約を試みると同時に、サンフランシスコと北海道においてコモンズの創出を志向する運動の試み(「ナウトピア」)についても検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論的には、情動的な側面の重要性を指摘するなど順調に進んでいる。また、本研究の理論的な基盤の一つであったフェデリーチの主著『キャリバンと魔女』を翻訳刊行することができたことも研究の進行をいっそう促すものとなった。調査についてもおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
理論的研究としては、アウトノミア系アナーキズム運動の(1)都市モラル・エコノミー的、文化的、情動的次元についての研究と、(2)都市コモンズの制度的・物質的条件についての研究を、おもに理論的な文献を整理する作業を中心に進める。前者については、昨年に引き続き、S. フェデリーチ、M. アンジェリスらの研究を参照しながら行う。後者に関しても、昨年に引き続き、都市コモンズを構成する関係性の創出・維持(コモニング)とその解体の制度的・物質的条件について、ハーヴェイらの現代的本源的蓄積論(「略奪による蓄積」)を参照して行う。また、本年度は、両者の議論を統合的に整理する作業を始めるが、その際、コモンズの集合的記憶とその再活性化に関する歴史社会学的アプローチを試みる。というのも、とりわけアウトノミア系運動にとって、現在グローバルな規模で台頭してきたポピュリズム勢力との対抗が重要な課題であり、それが保守的なコモンズ解釈との、コモンズの記憶をめぐるせめぎ合いとして顕在化してきたからである。 フィールド調査としては、理論研究で検討する論点や知見と対応するかたちで、(1)東アジア(台北、台南、釜山)、東南アジア(ジョグジャカルタ周辺、フィリピン)、日本(東京)のアウトノミア系運動の都市ネットワークの実態に関する研究、(2)オーストラリア(シドニー、ウーロンゴン)のアウトノミア系運動の都市ネットワークの実態に関する研究、(3)それらの地域における都市や在地社会のコモンズの維持とコモンズの記憶に関する調査を行う。
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Causes of Carryover |
2017年1月にフィリピンのアクティビストへの訪問を予定していたが、先方の都合により実現ができず、その分を次年度へを繰り越しとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度予定していたフィリピンのアクティビストのコミュニティにおもむき、聞き取り調査を行う。
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Research Products
(10 results)