2016 Fiscal Year Research-status Report
「移民国」ドイツの排外主義 ーグローバル化のなかの国民国家ー
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15K03874
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 教授 (90292466)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 国民国家 / 移民 / ドイツ / 排外主義 / シティズンシップ / 反イスラム主義 / 認知的アプローチ / 権利 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一にロジャース・ブルーベイカーの論文を編集・翻訳した『グローバル化する世界と「帰属の政治」 移民・シティズンシップ・国民国家』(明石書店)を10月に出版した。翻訳作業は,研究代表者が勤務する大学院の博士課程の学生との協力により行った。 第二に,排外主義をテーマとする研究会を2度開催し,それぞれ首都圏外からの研究者を1人づつ招聘し,研究報告をお願いした。7月31日(日)には北海道大学の樽本英樹氏を招いて「外国人移民排外主義の分析にむけて」という報告が行われた。また,3月12日には立命館大学の南川文里氏を招いて「アメリカ合衆国における排外主義と国境管理 -ネイティヴィズムの歴史的展開に注目して」という報告が行われた。後者においては,研究報告の後,上記ブルーベイカーの翻訳本をめぐる合評会を行い,明戸隆浩氏,曺慶鎬氏にコメントをお願いした。 第三に,研究代表者本人の研究成果の第一として,近年のドイツの排外主義の経緯とその背後にある「論理と心理」について分析した「なぜ,「イスラム化」に反対するのか ー近年ドイツにおける排外主義の論理と心理」を執筆した。この論文は2017年中に樽本英樹氏編集の本の中の一章としてミネルヴァ書店から出版される予定になっている。 第四に,排外主義発生の前提である1970年以来の国民国家における外国人の権利の向上について分析した論文「国民国家と外国人の権利 ー戦後ドイツの外国人政策から」を『社会志林』第63巻第4号(2017年3月)に掲載した。これは2016年9月に同一タイトルで行った研究報告(比較歴史社会学研究会)をもとにしたものである。 第五に,「ロジャース・ブルーベイカーの認知的アプローチ ーその人種・エスニシティ・ネーション研究にとっての意義」を10月9日に行われた日本社会学会大会で報告した。この報告は2017年度中に論文として発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調」と理解しているが,研究の範囲が当初予想していた以上に拡大している。 第一に,ブルーベイカーのアプローチを人々に紹介し,今後研究に活用するための準備作業として、彼の「認知的アプローチ」についての研究報告や論文執筆を進めたということである。昨年度の日本社会学会で行った研究報告では,かなり理論的な傾向の強い報告であったにも関わらず,参加していた主に経験的研究に関わっている研究者たちからもかなり好意的な評価をいただき,このアプローチの有効性に対する確信が深まった。 第二に,国民国家における外国人の権利の向上に関する分脇枠組と,1970年代以後のドイツ連邦共和国での外国人政策(難民政策を含む)に関する検討を始めたことである。これは,「移民国ではない」と長らく標榜してきたドイツが,実際には事実上の移民国となり,世界有数の難民受入国になっているパラドックスに関し,実は国民国家のの中に内在する法的制度の論理から来るのではないかという見方を発展させることにつながっている。 第三に,研究の中心テーマであるドイツの排外主義それ自体の展開である。この間、ドイツでは反イスラム,反移民・難民,反EUを掲げる右翼政党のAfDがかなり支持を伸ばしつつ,他方では内部分裂から支持率が低下する傾向も見られる。また,かつて注目された反イスラムの市民運動PEGIDAの方は一時のエネルギーを失い、極右化が進んでいるように見える。このような動向をフォローしていくのに,今年度は多くの時間を費やした。昨年度は9月にベルリンに滞在して,研究調査を行ったが,まとまった分析までにはまだ少し時間がかかるであろう。 このように,今年度は研究課題に関わる複数のテーマを同時進行的に進めるかたちとなった。そのため,今後これらのテーマを総合するための作業が必要となるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
先ず,今年度は昨年同様,年2回の研究会を開催し,首都圏外から研究者を1名づつ招聘し,研究報告および討議を予定している。第1回目は7月,第2回目は2018年3月を予定している。テーマとしては,「国民国家と外国人」をめぐる問題とし,排外主義の理解につなげていく。 第二に,Sinisa Malesevic, Nation-states and Nationalisms (Polity 2013)を2冊目の翻訳のための著作とし,何人かの若手研究者と共同して翻訳の作業にあたる。この著作は,国民国家の内在的な制度の論理を解明するために役立つ。 あらためて確認しておくと,この研究プロジェクトの課題は,ドイツの排外主義の動向を調査しつつ,グローバル化と国民国家との関係についてより一般的な考察を進めるという2つの側面から成り立っている。最終年度にあたる今年度は,この両面から研究を進めつつ,その成果を単著として発表するための準備作業を完遂することを目的にしたい。 理論的枠組としては,国民国家と外国人の関係に関し,排外発生の要因の1つを「リベラルで民主的」な国民国家に内在する制度論理に求める説明枠組を発展させていく。また,排外主義の対象である人間のカテゴリー化の過程を「認知的アプローチ」によりつつ明らかにしていく。 その上で,ドイツの排外主義それ自体に関する考察を進めていく。ドイツでは昨年から今年にかけてPEGIDAやAfDに関する学術的著作が出版されるようになっているが,まだこの排外主義現象の全体像を把握できるような説明枠組は整っていない。しかも,現象そのものが現在進行中である。今年はドイツで総選挙が予定されているが,そこでのAfDの動向も注目される。今年度は,進行中の動向に注目しながら,それに関する説得力をもつ説明の枠組を探っていきたい。
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Causes of Carryover |
今年度は3月に研究会を開催し,報告者への謝金が期限に間に合わなかったため,謝金分を次年度に繰り越した(11,137円)。また,必要となる文献の選択に時間がかかったため,年度内に間に合わなかった。一部3月に請求し(13,071円),残りの額を次年度に請求することにした。また,今年度は,もう1名首都圏外からの研究者の招聘を予定していたが,結局招聘しなかったため,予算に余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,今年度残った額を,研究会の開催のために用いる予定である。次年度には首都圏外から招聘する研究者を1名増やし,3名の研究者が招聘可能となる。そのため,約6万円を予定している。残った額は,文献購入(約2万5千円)の他,現在研究報告や資料作成のために用いているプリンターが故障気味なので,新たにプリンター1台を購入予定である(約4万円)。3月段階ですでに約2万4千円使用し,それが次年度4月に執行されている。総計で今年度残高となった149,640 円が使用されることになる。
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