2015 Fiscal Year Research-status Report
支援の社会学―「語れる主体」を前提としない支援実践
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15K03877
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
佐藤 恵 法政大学, キャリアデザイン学部, 教授 (90365057)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水津 嘉克 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (40313283)
伊藤 智樹 富山大学, 人文学部, 准教授 (80312924)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 支援 / ナラティヴ・アプローチ / 犯罪被害者 / 神経難病・高次脳機能障害 / 自死遺児 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は。現代社会において、忘れられ置き去りにされがちな人間の苦しみにスポットをあてる調査研究を行うとともに、<支援する側>と<支援される側>の関係性をとらえる理論的枠組を彫琢することを目的とする。調査研究のフィールドとしては、犯罪被害者、神経難病・高次脳機能障害、自死遺児といった事例を主要なものとしている。 今日、支援が構想されるにしても、制度やしくみに基づく支援による「解決」に議論の主軸が置かれ、苦しみを生きる人々の経験や支援ニーズへの理解が置き去りとなりやすく、制度的枠組をつくることによって、<支援>が行き届かない当事者の苦しみがかえって看過されていくという問題が生じてきている。このように、現在社会においては、その存在が知られていないわけではないが、制度・しくみという「箱」の整備が語られることによって、「(箱の)中身」の充填がなおざりになり、優れた技術や実践の紹介に専心するあまり、いまだなお残る苦悩が見過ごされる現状がある。 以上のような問題意識に立脚し、平成27年度は、犯罪被害者、神経難病・高次脳機能障害、自死遺児それぞれの事例において、当事者の苦しみとその支援のリアリティに関し、インテンシブな調査研究、なかんずくナラティヴ・アプローチの立場に立った質的研究を進めた。 こうした研究は、苦しみを容易には語れない当事者の状況に焦点を合わせ、語れる主体を前提にするのではなく、むしろ語れるように<なっていく>プロセスや語りが<頓挫>するプロセスにこそ注目するという、新たな「支援の社会学」の構築という意義を有する研究である。語れる主体を前提としない支援実践という、従来の「支援の社会学」では研究の蓄積のあまりない領域をテーマ化する点に、本研究の社会学的な重要性が存在する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の平成27年度計画は、調査研究のプランを洗練し軌道にのせるとともに、理論的探においても準備的な作業を行うというものであった。 (1)調査プランを洗練し軌道にのせる:調査研究の主要なフィールドは、犯罪被害者、神経難病・高次脳機能障害、自死遺児である。これら三つについては、既に調査対象者とのラポールが形成されており、それを発展させる形で調査を積み重ねることで、本研究の主要なデータがおおむね順調に得られつつある。 (2)理論的作業における準備的な作業:研究代表者・研究分担者は、これまでも研究上の交流をもち、理論的な討論を行ってきており、また本研究課題のベースとなる知見も得てきている。これらを改めて洗い出すように検討し、平成28年度以降も重要になるだろう論点を導き出す作業を行い、そうした作業はほぼ計画通りの進捗状況にある。 たとえば、これまでの知見として、アーサー・フランクのいう「回復の物語(the restitution narrative)」に適合しない経験をもつ人が、生きやすい自己物語を模索する場としてセルフヘルプ・グループをとらえる視座が導かれており、その延長線上において、ジュリアン・ラパポートの「共同体の物語(community narrative)がセルフヘルプ・グループにおいて人々の自己物語の型として機能しているという知見が得られている。ただし、そこからさらに考えると、それぞれのグループがもつ「共同体の物語」の弱点や語りにくさをも勘案しなければ、社会学研究それ自体が「語りさえすれば問題は解消する」という安易が解決主義に陥る自己矛盾も感じられる。そこで、この概念については、個々のケース・スタディにおいて慎重に検討していく必要があり、現在、そのような検討が順調に進みつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度の検討をふまえたうえでの実査を行う。それぞれのフィールドにおける状況を勘案して、本研究にとって中心となる事例を見極め、その調査を遂行する。 研究代表者・研究分担者のフィールドでの知見を共有し、理論的な討論を行うにあたっては、<支援する側>と<支援される側>の関係性をとらえる社会学理論のうち、どの部分を本研究が前進させたのか、さらに残る課題はどこにあるのかを明確にする。またそれまでに明らかになった成果をそれぞれの現場に持ち帰りフィードバックを受けることも重要な作業であると考える。 ただし、本研究のように質的調査研究を行う場合、調査遂行と理論的検討は同時並行的であり、むしろそれは平成27年度の準備的な作業から既に始まっていると考えるべきだろう。したがって、平成28年度および平成29年度においても、平成27 年度で計画し遂行した理論的作業および調査プランの部分的な練り直しは継続していくこととなる。
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Causes of Carryover |
消耗品費や旅費(研究打ち合わせ、調査研究)等の平成27年度支出額が、当初計画よりも縮小し、平成28年度以降に支出を見込むこととなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
図書(支援、ボランティア、ピア・サポート関連)、パソコン周辺機器、旅費、文字起こし委託等に支出する予定である。
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Research Products
(2 results)