2015 Fiscal Year Research-status Report
ポスト多文化主義時代におけるマイノリティと移民の包摂に関する国際比較研究
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15K03880
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
岩間 暁子 立教大学, 社会学部, 教授 (30298088)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
劉 孝鐘 和光大学, 現代人間学部, 教授 (80230605)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マイノリティ / ナショナル・マイノリティ / エスニック・マイノリティ / 少数民族 / 移民 / 社会学 / 国際比較 / 多文化主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1課題(ナショナル・マイノリティ(以下、NM)概念の変遷や権利保護の意義などをヨーロッパの事例に基づき検討)については、オーストリア・マルクス主義の民族理論ではNMは「多民族帝国の中の非主流少数民族」を意味したこと、この人々が第一次世界大戦が近づく中で独立を志向し、やがて「自民族を主体とする国家の外に住む人々」という意味がNM概念に追加され、場合によってはより重視されたこと、冷戦崩壊後にNMの定義に向けての努力がなされたが合意に達しなかったため「少数民族保護枠組み条約」には定義が示されなかったが、「数が少ない非主流民族」との共通認識はあり、「居住歴」という在住国との関係がより重視されたことなどを明らかにした。「自民族を主体とする国家の外に住む人々」という要素の重視度は低くなったが、この意味でのNMの保護は平和的な国際秩序の維持上、依然として重要である。 第2課題(ヨーロッパの認定基準を日本、韓国、中国に適用した場合、NMに相当する少数民族は存在するのかなどの検討)については、日本ではアイヌや沖縄の人々がNMに相当するだろう。韓国にはNMに相当する民族は存在しないと考えられる。中国では建国以来、55の少数民族が「ナショナル・マイノリティ」とされてきたが、90年代半ば以降、英語表記は「エスニック・マイノリティ」に変更された。ただし、マイノリティの権利に関わる大きな変化はまだ現れていない。 第3課題(ヨーロッパと日韓中の事例をもとに、民族構成などとマイノリティ概念やNM・少数民族・移民のための諸政策の対応関係の検討)については、民族構成や民族関係の特徴によりマイノリティ概念や諸政策は異なることを明らかにした。 第4課題(オーストラリアの事例検討)のうち、レビューは進めたが、現地調査は第5課題(英語の学術書刊行の準備)を出版契約との関係で先行させる必要上、2017年度に延期した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多文化主義への懐疑がヨーロッパでも広がり、移民の統合・編入のあり方が改めて問われている。本研究は、こうしたポスト多文化主義時代における移民(「新しいマイノリティ」)と「旧来のマイノリティ」であるナショナル・マイノリティ(少数民族)の社会的包摂策の関係を国際比較によって理論的実証的に検討することを目的としている。 これらの目的を達成するため、2015年度は主に3つの作業を進めた。第一に、関連する先行研究の収集とレビューを各自で進め、その成果を研究会を通じて共有した。 第二に、ナショナル・マイノリティと移民の関連に関わる新たな政策を近年展開して注目を集めているチェコ共和国の状況について、カレル大学の研究者を招いた講演会「チェコ共和国におけるマイノリティ概念と政策の変遷」を2015年10月に開催した(主催は本科研プロジェクト、後援は日本スラブ学研究会)。 第三に、得られた成果を英語の学術書として刊行するために、各自で執筆を進めた。 このように、初年度でおこなうべき研究計画を順調に遂行している。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度に提出済みの「交付申請書」に記載しているように、大半が多民族国家のヨーロッパ内でも権利保護に積極的な国(スウェーデンなど)と消極的な国(デンマークなど)に分かれる。他方、伝統的に民族的同質性が高い日本と韓国は移民受け入れにともに消極的だったが、最近では移民の包摂に積極的な韓国、今なお消極的な日本という違いがみられる。こうした移民政策の違いを生み出す社会的政治的背景として、1.民族構成と民族関係のありよう、2.「マイノリティ」概念の受容の仕方に着目して国際比較アプローチを用いて分析することが本研究の主な研究課題であるが、これらの研究課題の遂行に向けて、2016年度、2017年度は次の4つの作業を進める予定である。 1)韓国の移民政策や支援の実態を明らかにするため、政府機関やNGO、当事者へのインタビュー調査を韓国で実施する。また、韓国が移民の受け入れ策を推進するにあたっては、日本、中国、アメリカ、旧ソ連などで暮らす「在外同胞」の存在を考慮する必要があると考えられるため、「在外同胞「をめぐる状況についても検討する。 2)デンマーク、スウェーデンにおけるナショナル・マイノリティ政策や移民政策の基本的な枠組みやナショナル・マイノリティの認定基準などについては、2012年度から助成を受けた科学研究費プロジェクトのなかで検討済みであり、既に得られている知見を参照しつつ、デンマーク、スウェーデン、日本、韓国の事例をもとに、民族構成、民族関係、マイノリティ概念、ナショナル・マイノリティ政策/少数民族政策、移民政策の間に見られる対応関係を検討する。 3)オーストラリアの多文化主義政策において認められている少数民族や移民の権利について現地での資料収集をおこなう。 4)英語の学術書の出版に向けて、2015年度、2016年度に得られた成果に基づく最終原稿を完成させるとともに、編集作業を進める。
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Causes of Carryover |
繰越金が生じた理由は主に二つある。一つは、英語の学術書の出版に関わり、用語の統一や内容の整合性をはかり、より質の高い英文原稿を仕上げるためには、原稿の大半が集まった段階で専門業者に英文校閲を依頼する方がより適切であると判断されたため、当初計上していた英文校閲費用を次年度にまわすことになった。もう一つの理由も同様に英語の学術書の出版と関連しているが、原稿を出版社に提出する契約上の期限との関係でオーストラリアでの現地調査を延期したために旅費の繰越金が生じた。なお、本プロジェクトの枠組みや成果などを英語でとりまとめた学術書を刊行後の方が、オーストラリアでの現地調査の際に関係者にこちらの意図や狙いなどを的確に伝えやすく、より掘り下げた調査ができる見込みが高くなるだろうという判断もある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
いずれの理由も研究計画の中止ではなく、執行年度の変更であるため、当初の予定通り、英文校閲費用と旅費として執行する。英文校閲費用は2016年度、旅費は2017年度の執行を予定している。
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