2016 Fiscal Year Research-status Report
ポスト多文化主義時代におけるマイノリティと移民の包摂に関する国際比較研究
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15K03880
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
岩間 暁子 立教大学, 社会学部, 教授 (30298088)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
劉 孝鐘 和光大学, 現代人間学部, 教授 (80230605)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | マイノリティ / ナショナル・マイノリティ / エスニック・マイノリティ / 少数民族 / 移民 / 社会学 / 国際比較 / 多文化主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、移民という「新しいマイノリティ」と「旧来のマイノリティ(いわゆるナショナル・マイノリティ)」の社会的包摂策の関係を国際比較により理論的実証的に明らかにすることだが、2016年度の成果は次の3点である。 第一に、ドイツとロシア・ソ連における「マイノリティ」ということばの定義や用いられ方などを辞事典や公的文書などの資料を収集して分析した結果、両国におけるマイノリティとは少数民族を指すこと、「ナショナル」な要素が最重要視されてきたという2つの共通点があることを明らかにした。他方で、ロシア・ソ連では国際情勢やソ連解体などの影響を受けて意味や指示対象が大きく変化したこと、ドイツでは不可欠な「数の少なさ」はロシア・ソ連では必ずしも重視されなかったなどの違いも明らかになった。 第二に、アメリカについては20世紀初頭以降の社会学辞事典や英英辞典、議会資料などを収集・分析した結果、ヨーロッパのマイノリティ概念の中核をなす「数の少なさ」や「ナショナル」な要素が注意深く排除された定義が第二次世界大戦終結直前に社会学者によって提示され、移民国家アメリカにおけるナショナル・マイノリティに対する全般的な危機感を背景に急速に広まり、1960年代以降は「差別」され、「偏見」を受けている弱者というアメリカ流のマイノリティ概念が主流となったこと、公民権運動の成功やアイデンティティ・ポリティクスの勃興などにより、障碍者やLGBTなどの多様な集団がマイノリティということばを用いるようになり、さらにその指示対象が拡散したことが明らかになった。 第三に、ヨーロッパとアメリカのマイノリティ概念・政策の相違点を整理するとともに、ポーランド、チェコ、デンマーク、スウェーデンなどにおけるナショナル・マイノリティ政策の近年の動向も踏まえつつ、欧州評議会の「少数民族保護枠組み条約」の今後の方向性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度は主に3つの作業を進めた。第一に、ドイツ、ロシア・ソ連、アメリカのそれぞれにおけるマイノリティ概念の定義や政策の指示対象などの変遷について、社会学辞事典や百科事典、公的文書などの多様な資料を収集・分析し、日本語論文としてまとめた。これらの成果を研究会などを通じてメンバー間で共有した。 第二に、第一次世界大戦以降のヨーロッパや国際社会におけるナショナル・マイノリティを含めたマイノリティ保護の歩みを国際比較の観点から整理・考察するため、国際連盟、国際連合、欧州評議会、ヨーロッパ連合などの取組みに関する先行研究の収集とレビューをおこない、日本語論文としてまとめた。 第三に、本研究の成果を英語の学術書として発表するため、既に海外の出版社と契約を結んでいるが、出版社への原稿提出に向けて日本語論文の英語への翻訳を各自で進めた。 なお、出版社との契約の関係上、ヨーロッパやアメリカの事例についての日本語論文の執筆および英訳を優先させる必要が生じたため、韓国やオーストラリアでのヒアリング調査を延期した。 このように、一部に変更が生じているが、おおむね順調に研究計画を遂行している。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度に提出済みの「交付申請書」に記載しているように、大半が多民族国家のヨーロッパ内でも権利保護に積極的な国(スウェーデンなど)と消極的な国(デンマークなど)に分かれる。同様に、伝統的に民族的同質性が高い日本と韓国は移民受け入れにともに消極的だったが、最近では移民の包摂に積極的な韓国、依然として消極的な日本という違いが見られる。こうした移民政策の違いを生み出す社会的政治的背景として、1.民族構成と民族関係のありよう、2.各国の「マイノリティ」概念の定義や指示対象などの特徴に着目して国際比較アプローチを用いて分析することが本研究の主な課題であるが、これらの研究課題の遂行に向けて、2017年度は次の4つの作業を進める予定である。 (1)韓国、中国におけるマイノリティ概念の定義や用法、マイノリティ政策の対象やその内容に関して、歴史的変遷も考慮しつつ検討する。 (2)日本、韓国、中国におけるマイノリティ概念の特徴と政策に見られる共通点と相違点を整理するとともに、東アジアにおけるマイノリティ保護が困難である理由を明らかにする。 (3)これまでの成果として得られているヨーロッパやアメリカ、国連などの国際社会におけるマイノリティ概念や政策の変遷に関する知見を踏まえつつ、マイノリティ保護に関する地域レジームが存在しない東アジアにおいて、マイノリティの包摂のために必要な課題を整理するとともに、今後の展望を示す。 (4)英語の学術書の出版に向けて、最終原稿を完成させるために、翻訳作業と編集作業を進める。
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Causes of Carryover |
繰越金が生じた理由は主に二つある。一つは、英語の学術書の出版に関わり、用語の統一や内容の整合性をはかり、より質の高い英文原稿を仕上げることを目指し、英文校正を専門業者に発注して順調に進めているが、支払いはすべての原稿の英文校正完了後になるため、次年度にまわすことになった。もう一つの理由も同様に英語の学術書の出版と関連しているが、原稿を出版社に提出する契約上の期限との関係で韓国とオーストラリアでの現地調査を延期したために旅費の繰越金が生じた。特に、オーストラリアでの現地調査については、本プロジェクトの枠組みや成果などを英語でとりまとめた学術書刊行後の方が関係者にこちらの意図や狙いなどを的確に伝えやすく、より掘り下げた調査ができる見込みが高いだろうという判断もある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
いずれの理由も研究計画の中止ではなく、執行年度の変更であるため、当初の予定通り、英文校閲費用と旅費として執行する。
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