2017 Fiscal Year Research-status Report
ポスト多文化主義時代におけるマイノリティと移民の包摂に関する国際比較研究
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15K03880
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
岩間 暁子 立教大学, 社会学部, 教授 (30298088)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
劉 孝鐘 和光大学, 現代人間学部, 教授 (80230605)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マイノリティ / ナショナル・マイノリティ / エスニック・マイノリティ / 少数民族 / 移民 / 社会学 / 国際比較 / 多文化主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、移民という「新しいマイノリティ」と「旧来のマイノリティ(いわゆるナショナル・マイノリティ)」の社会的包摂策の関係を国際比較により理論的実証的に明らかにすることだが、2017年度の成果は次の4点である。 第一に、韓国では、英語の「マイノリティ」に対応することばとして、韓国語で「マイノリティ」とそのまま表記したことばよりも、「少数者」ということばがより一般的に用いられているが、「少数者」ということばの使用や、このことばで指し示される人々に対する社会的関心が2000年前後に急激に高まったことを確認したうえで、その社会的政治的経済的背景を明らかにした。 伝統的に民族的同質性が高い韓国は、日本と同様に移民の受け入れに消極的だったが、近年、外国人・移民の包摂に向けて積極的に取り組むようになり、国際的にも高い評価を受けていることを踏まえ、第二に、韓国華僑、外国人労働者(特に「雇用許可制」を中心に)、多文化家族、在外同胞のそれぞれに対する包摂策の内容とその展開過程の分析を通じて、韓国の社会的包摂策の特徴を明らかにした。さらに、こうした変化は、市民社会の成熟、人権や民主主義を重視する政権の誕生と継続などによって生み出されたことも明らかにした。 第三に、日本、韓国、中国におけるマイノリティ概念の特徴と政策に見られる共通点・相違点を整理するとともに、東アジアにおけるマイノリティ保護が困難である理由を明らかにした。 第四に、英語での学術書刊行に向けて、これまで得られた知見を英語の論文としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
成果を国際的に発表するため、英語圏の代表的な学術出版社の一社と出版契約を結び、英語での原稿執筆を進めているが、英語への翻訳、英文校正、編集作業に当初の想定を超える多くの時間を要している。 まず、それぞれの言語圏や国における「マイノリティ」ということばや、「マイノリティ」とされる人々の状況、その人々を対象とした政策に関する国際比較をおこない、それによって得られた成果を各国の事情や言語をよく知らない読者に的確に伝えるためには、翻訳上の工夫が相当求められ、翻訳と英文校正に想定以上の時間を要している。 また、本プロジェクトでは日本語と英語の文献に加えて、朝鮮語、中国語、ロシア語、ドイツ語などの多言語による資料も多く用いている。また、用いる資料も通常の学術文献にとどまらず、法律、議会資料、web百科事典など多岐にわたる。こうした多言語による多様な資料を、出版社が定めた数十ページにわたる「執筆者マニュアル」および英語圏の社会科学系論文の標準的なスタイルとして知られている、1000ページを超える『The Chicago Manual of Style』に依拠して引用したり、文献リストで英訳を加えつつ統一的に整理することが求められているが、こうした作業にも想定以上の多くの時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度に提出済みの「交付申請書」に記載しているように、大半が多民族国家のヨーロッパ内でも移民の権利保護に積極的な国(スウェーデンなど)と消極的な国(デンマークなど)に分かれているが、東アジアでも近年、外国人労働者や移民といったエスニック・マイノリティの権利保護に積極的な韓国と依然として消極的な日本という違いが見られる。こうした外国人・移民に関する政策の違いを生み出す社会的政治的背景として、1.民族構成と民族関係のありよう、2.各国の「マイノリティ」概念の定義や指示対象などの特徴に着目して国際比較アプローチを用いて分析することが本研究の主な課題であるが、これらの研究課題の遂行に向けて、2018年度は次の2つの作業を進める。 (1)マイノリティ保護に関する地域レジームが存在しない東アジアにおいて、マイノリティの包摂のために必要な課題を東アジアの近代以降の歴史をさかのぼりつつ整理するとともに、ヨーロッパや国連を中心に進められてきたナショナル・マイノリティの権利保護の枠組み、多文化主義を続けるアメリカやカナダの事例などを参考にしつつ、東アジアにおけるマイノリティ保護に向けた課題と展望を示す。 (2)英語の学術書の刊行に向けて、翻訳・英文校正、編集作業を進める(出版社との契約上、他の媒体で発表することが認められていないため、研究発表はゼロとなっている)。
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Causes of Carryover |
繰越金が生じた理由は主に3つある。一つは、英語の学術書の出版に関わり、用語の統一や内容の整合性をはかり、より質の高い英文原稿を仕上げることを目指し、学術書の英文校正のクオリティに定評のある専門業者に依頼して進めているが、支払いはすべての原稿の英文校正完了後になるため、次年度にまわすことになった。 二つ目の理由も英語の学術書の出版と関連するが、文献リストを出版社が指定する書式にあわせて統一するなどの一連の編集作業については、英語で社会科学系の学術論文を執筆した経験をもつ方のサポートを得ているが、編集作業の遅れにより、謝金の支払いが次年度になった。 第三に、旅費の未執行は、主に、原稿の英語への翻訳と英文校正に当初の想定以上に多くの時間を要したため、出張に出かける時間がとれなかったことに起因する。
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