2015 Fiscal Year Research-status Report
現代中国におけるコンテンシャス・ポリティクスの推移と到達点
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15K03890
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
松戸 庸子 南山大学, 外国語学部, 教授 (30183106)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松戸 武彦 南山大学, 総合政策学部, 教授 (10165839)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 信訪制度 / 公民(市民)社会 / 住民運動 / 鳥籠論 / 強権国家(化) / ポピュリズム / 中間層 / ポストモダン |
Outline of Annual Research Achievements |
「研究目的」は中国の信訪(陳情)活動の実態、集団抗議事件や異端弾圧に関する実態調査を通じて、中国社会の秩序形成や統治構造の特性とその推移を分析することで、今年度は2度の現地調査を行い、研究者2名で3本の論文を公表した。 8月の北京調査では「分譲マンション区分所有権」をめぐる住民運動、弁護士弾圧に関する初歩的な聴き取り、中国の最高裁の陳情受付現場などの現地調査を行った。また上海では、日系企業幹部から中国の労働実態の聞き取りや金山区工業団地(化学工場へのPX導入反対運動)や地方の証券取引所などの初歩的な調査を行った。 年度末の2016年3月には香港で2014年の学生運動(行政長官の選出方法をめぐる民主化要求運動)の問題点や香港人のidentityなどについて研究者や学生と意見交換をした。さらに、北京では「分譲マンション区分所有権」をめぐる住民運動について再度の聞き取り、弁護士と中国政治に関して意見交換、またNGO間の連携を活動目的とするNGO("ハブ型NGO")で活動実態や政府の圧力を緩和するための対策などについて聴き取りをした。 今日、中国の習近平 政権下では言論や報道の自由度は年々低減し、いわゆる人権活動一般への迫害が増悪するのに伴い、調査研究一般の難度が増し、我々外国人研究者による中国での調査研究(中国との共同研究)がほとんど実施できなくなっている。したがって集団陳情や集団抗議事件や中国政府による迫害(たとえば人権派弁護士など)に関する初歩的な調査にとどまるといえども日本を含む外国人が初めて掴んだ情報や知見も入手できている。 現地調査で入手した情報や知見をもとにしてまとめた論考では、①中国の市民社会の特性分析に「鳥籠論」を援用、②意識調査結果を「ポピュリズム」や「強権化」の視点から再考し、③中国での意識調査から啓発を受けてポストモダン社会論への理論的な模索をした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究者2名で3本の論文を公表できたし、下記のような現地調査の実施困難性が年々増悪することは或る意味で織り込み済みであったので、総体としてはまずまずの成果を挙げることができたと判断する。 中国華南地域で実施したアンケート調査(2014年度:都市と農村で800票)に関して現地でのインテンシヴな聴き取り調査は中国側研究者から断られた(その理由は、外国人である日本人による現地聴き取り調査は政治上の理由から実施不可能というもの)ものの、我々のテーマに沿う、別の意識調査「政治の実効性や警察官への信頼に関する意識調査」に関する論文や「訴訟関連信訪の実証研究」論文などの提供を受けることができ、次年度に編集を予定する『論文集』へ掲載予定である。 また、実施できた現地調査は小規模(聴き取り対象が少ない)ではあるが、得られた情報は実証といういうよりも索出的な価値を持つものとして、中国政治論・中国社会論や社会学の各種理論を応用することで、経済は市場メカニズム、政治は改革前の強権・独裁体制という中国の社会構造や意識構造を「鳥籠に閉じ込められた市民社会」、ポピュリズム、強権主義化」「ポストモダン」などの枠組みで分析した。 他方で、細々とした現地調査を継続することで、逮捕された弁護士の弁護士(この人物も逮捕された)を弁護する弁護士から、ある意味”参与観察”的に中国社会や中国政治の実態を垣間見ることも可能となり、さらには"Non Government Government Organizaiton"と揶揄される中国の諸NGOのハブ的役割をする団体とも接触ができ、現地調査の新たな可能性を探ることができたので、社会主義国における実証研究の困難さを考慮すれば、まずまずの研究成果を挙げていると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初は実施の可能性を探っていた第2回目のアンケート実施は、中国の現地の政治的事情から断念せざるを得ない見込みと判断している。その代りとして今年度調査の大きな収穫としてつながりが得られた"ハブNGO"(北京市)を新たな研究拠点として、NGOが強権国家たる中国の中で果たす機能の実態把握や意義の分析のための切り口として、新たに研究対象に付け加えたい。政府とNGOとの関係及びその変化、NGOと海外セクタ-との関係(及び政府の反応や対応)、中国のNGO同士の協力と離反などを観察していくことが可能だと考える。また日本で近年報道されなくなった、中国の津々浦々で日常的に発生する各種の集合行動(デモ、ストライキや暴動や集団陳情など)についても情報収集を続けていく。 上記から得られた新しい知見に対しては、于建嶸を中心とする「抗争政治(contentious politics)」論など援用して分析を進めたい。他方では、中国の現地での直接的なヒアリング調査はできないものの、信訪(陳情)の各種ケースに関しては中国人ジャーナリスト等による書籍(ヒアリング集)も新たに上梓されたので、そうした情報源から実態をより精緻なものにしていく。 かつて、不合理な国家制度(信訪制度のこと)の存続理由として、我々の研究チームが分析の中核に置いてきた「パターナリズム」、「カリスマ(信仰)」や「中国の伝統的な法意識」などとは異なる斬新な理論的切り口を見つけたいと考えている。
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Causes of Carryover |
現地調査を2回実施し、2度目の実施は年度末の3月下旬となったために書類上は繰越金(次年度使用)が生じた。しかし3月の現地調査で通訳料と資料購入(香港で関係資料を購入した)で研究費を使用したため、持ち越し額(次年度使用額)83,417円のうち55,166円(持越し額の約66%)は使用した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実質的な次年度使用額は28,251円のみなので、次年度に十分消化可能な金額である。 次年度の旅費(海外)の不足が予想されるので、それへの補填として使用したいと考えている。
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