2015 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本における予防接種の展開とそれをめぐる議論の歴史社会学的分析
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15K03891
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
香西 豊子 佛教大学, 社会学部, 講師 (30507819)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 予防接種 / 種痘 / 天然痘 / 歴史社会学 / 近現代 / 種痘禍 / リスク / 政治性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近代以降に日本で本格的に施行されはじめた予防接種の展開を、歴史社会学の手法をもちいて検証することを通し、「予防」というかたちをとった身体への医療の介入がいかなる政治性を帯びうるかを、3年間で実体的に明らかにすることを目的とするものである。初年度となる平成27年度は、本研究を構成する3つのサブ課題のうち、第1の課題(近代の日本における予防接種の是非をめぐる議論の全容解明)に取り組んだ。 上半期は、①本研究を通して参照・分析する図書・資料の発注・読解と並行し、②第1の課題に関して参照・分析する図書・資料の調査・収集・読解・言説分析をおこなった。予防接種制度は、日本において近代(明治初年)以降に立ち上がった。しかし、その際、先行する諸外国の制度の何がモデルとされ、具体的にどのような施策が打ち出されたか、また制度の施行にあたってはどのような問題が生じ、いかなる議論がなされたかは、これまで十分に解明されてこなかった。本研究では、まずこの課題を取り上げることで、近代の立ち上がり期に予防接種制度はどのような方向性を持っていたかを確認した。 下半期は、近代以前の各藩における予防接種の実施状態について調査・史料読解をおこなった。疫学的な知見にもとづく予防接種は、たしかに日本では近代以降に始まるが、その実施には、幕末期の藩政レベルでの予防接種(種痘)の実施実態が大きく影響していることが、上半期の研究の過程で明らかとなった。そのため、幕末の予防接種(種痘)をめぐる議論を整理し直し、近代以降のそれへの接続を試みた。その結果、幕末期から近代にかけての予防接種(種痘)の実施には、個人レベルでの衛生以上に、社会レベルでの衛生や人口減少問題が決定的に関与していたことが、史料からも確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の平成27年度は、通年で、近代(予防接種制度の立ち上がり期)を対象とする予定であった。しかし、「研究実績の概要」欄にも記した通り、研究を遂行するうえで、幕末(日本への予防接種の導入・定着期)の議論が非常に重要であることが判明したため、下半期では、幕末期まで遡って議論を整理し直した。これは一見、研究の迂回ではあるが、その分、近代以降の資料では背景に遠退き不可視化される「人口をめぐる政治学」が実証的に明らかにされ、本研究の意義を高めることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、これまで順調に進展していることから、今後も当初の計画通りに課題を実施する。第2年度の平成28年度は年間を通して、第2の研究課題(近代の国内外における天然痘ワクチンの製造・流通の実態解明)に取り組む。最終年度の平成29年度は、上半期に第3の課題(戦後の「種痘禍」のリスク論的分析と、それが現代の予防接種制度に及ぼした影響の析出)に、下半期は本研究全体に関する成果論文および研究報告書の執筆に取り組んでゆく。 ただし、平成27年度と同様、近代以前(主に幕末期)に関する調査・研究を新規に行うかその既存の研究成果を利用するかして、現行の研究課題をより立体的に解明する必要が生じる可能性はある。その場合には、研究計画を若干修正することとなるが、時間軸に沿って近代以前に関する調査・研究を優先する。
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