2017 Fiscal Year Research-status Report
親密な関係における暴力加害者の特徴と暴力から離脱する過程の臨床社会学的研究
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15K03894
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中村 正 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (90217860)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 子ども虐待 / 家族療法 / 家族システム / 脱暴力 / 家族再統合 / 社会的養育 / DV / 臨床社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
虐待する親へのアプローチとしての「男親塾」はひきつづき安定して開催できている。当初計画どおり、一月に2回、年間とおして合計24回開催した(O市内)。ここに登録している父親は域内全体からの紹介があり、研究期間全体では35人程度であり、単年度では20人となっている。この取り組みは虐待する父親向けのグループワークであり、毎回、介入後家族の現況についてのナラティブをひきだし、さらにリフレクションの方式で相互にフィードバックをする際に用いられる語彙、表現、言い方、言説の内容などのコミュニケーション総体をもとにして加害者の行動と意識を考察しようと試みている。これが第1層の研究対象である。 さらに第2層は当該家族を担当する自治体のケースワーカーとの情報共有を兼ねた面談である。児童福祉と児童心理の専門知の作動の仕方を観察しつつ、スーパーバイズ的な機能をもつ場面でのケース担当者のナラティブをひきだしている。 第3層は児童福祉全般にかかわる指導者の俯瞰的でより高度な専門知が機能する場面での観察と環境設定である。家族再統合実践をさらに包括するファミリーソーシャルワークの知がどのように根づいていくのかについて観察している。これらはこの地域全域の専門研修として事例の担当者を中心にしてケースワークの報告をし、さらに指導者のコメントを入れ、研究代表者によるケースセオリーとしての統合という具合に展開している。 これは本研究がめざす家族再統合実践の臨床社会学研究のモデルとして抽出することを意図しているものの概観である。この三層構造について、それぞれを事例にもとづき記述し、家族システム論からの考察も加味して、全体として本研究の課題を明らかにしようとしたものである。3年目の研究をとおしてファミリーソーシャルワークの三層構造化モデルの骨格が明確になりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
家族再統合の達成はひとつの経過(プロセス)である。とくに家族が地域に生きていることを踏まえるべきであることの意味が再統合家族の事例をとおして浮かびあがる。虐待介入は当該家族が地域から孤立することを招く。とりわけ子育ての悩みや困難に近い領域で主訴をもつ家族の場合、介入は予後を悪化させるので、あらかじめ家族の地域生活の情報を把握する必要がある。子どもの事情は地域での社会的養育や教育機関との連携が不可欠であり、その連携があるからこそ介入後の回復や再統合の資源となりうる。 とくにきょうだい全員を保護する場合と当該の個人だけの場合では対応が異なる。この意味ではエコマップの可視化が大切となる。この点では、家族再統合は地域再統合でもあることが理解できる。これらの事例をとおして、地域に生きる家族の視点から、関係者に広く関与してもらう「家族応援会議(ファミリー・カンファレンス/ニュージーランドのモデルを参照している)」を開催することもあり、その際にもエコマップの可視化が奏功しつつある。 家族のやり直しだけではなく、当該家族が生きる地域での再統合あるいは地域の力を用いた再統合でもあるので、トータルなストレングスもしくはレジリエンスが見えてくる。また、乳児揺さぶり症候群や代理ミュンヒハウゼンの疑いのある家族などの困難事例も扱うことができている。表面の困難さの背後にある家族関係の課題や社会的な虐待の認知とのずれを含んで関係者全体が変化していくケースのトータルなマネジメントの課題にも取り組むことができつつある。多様な事例とであうことにより、回復過程が臨床社会学的に進行すること、そしてそこに家族システム論とファミリーソーシャルワークの視点が加味されるべきことを明らかにしつつある。これら諸点を総合して、地域の社会的養育の資源を活かすことで家族再統合実践の選択肢の幅を拡張することができると見込んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
残る研究期間では、ひきつづき男親塾を定期的に開催し、研究課題に迫ることとする。もとより研究のサイクルと現実の家族の再統合過程は合致しない。研究では、限られた時間の経過のなかで家族システム(家族関係性)が変化している様子を記述する視座の確認が大切となるので、上記の三層構造化モデル、エコマップの可視化、地域生活としての再統合過程という視点を加味したケースセオリーになるように、児童福祉と児童心理の専門知を臨床社会学的な観点から統合させていく。 そのなかでは、再統合過程における回復の概念もより精緻にしていく予定である。とりわけ虐待問題の中心にある親子の関係軸を支える夫婦という関係軸の安定の大切さである。ファザーリング、つまり父性を育むという課題の重要性がある。もっぱら父親の暴力で家族が分離されていくことにかかわる家族葛藤解決の父親の責任と回復という視点からのケースワークの大切さである。ペアレントフッド(親性)とともに確立していくべきパートナーシップについて、父親への働きかけの視点形成が重視されるべきことであるが児童福祉や児童心理の領域では男性性ジェンダーと家族システムの再構成の視点は弱い。これは子ども虐待とドメスティック・バイオレンスが交差するところにある課題としても位置づけられる。 実践では「面前DV」として可視化されてきたが児童福祉や児童心理では夫婦関係や男女関係は扱いに苦慮していることもあり、家族システム論の見地からこれを介入後支援に活かすべきことを指摘する。最終年度なのでこれまでの男親塾の記録、第2層にあるケースワークの知的洗練、第3層のケースマネジメントの力点の明確化もしていく予定である。観察している家族の再統合はなお進行中なので事例の記述の仕方には留意し、全体としての家族ソーシャルワークの動態がわかるような工夫をする。
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Causes of Carryover |
研究代表者が立命館大学副学長に就任したため、平成29年度のエフォートが変化したことが理由である。研究の基礎となる事例検討、分析や必要なデータの収集は進んでいるので、平成30年度において総合的な考察を行い、当初の目的を達成する予定である。
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