2016 Fiscal Year Research-status Report
日本語学習活動を核とした移住労働者の社会的統合―ベトナム人技能実習生を事例に
Project/Area Number |
15K03904
|
Research Institution | Notre Dame Seishin University |
Principal Investigator |
二階堂 裕子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (30382005)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
駄田井 久 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (60346450)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 国際移動 / グローバル化 / 社会的統合 / 日本語学習 / ベトナム人 / 外国人技能実習生 / 農業技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本の企業や地域社会で実施されている日本語学習活動を、国境を越えて移住してきた短期滞在の外国人労働者、とりわけ外国人技能実習生をめぐる課題の解決策のひとつとして位置づけ、その意義と活動の成立条件を明らかにすることにある。そのために、ベトナム人技能実習生(以下、「技能実習生」)を事例として取り上げ、技能実習生の就労先企業や居住地域のほか、ベトナム社会における調査を実施する。 2年目となる平成28年度は、技能実習生の就労状況や日本語能力の習得に関わる活動の現状、企業の技能実習生受け入れをめぐる方針や取り組みの状況、および技能実習生受け入れに関わる自治体の対応などについて、幅広くデータを収集することに努めた。具体的には、静岡県浜松市における技能実習生受け入れ機関、企業、日本語教室を開催している市民ボランティア団体、および浜松国際交流協会に対する調査、岡山県美作市における企業、技能実習生との交流活動を進めている市民ボランティア団体、および美作市役所に対する調査を行ったほか、愛媛県内や宮城県内においても技能実習生受け入れ機関や企業を対象とするインタビュー調査を実施した。 これに加えて、ベトナムを2回訪問した。現地では、①ベトナムに帰国した元技能実習生を対象とする生活構造についてのインタビュー調査、②ベトナム・フエ大学における海外就労や職業観についての質問紙調査、③ベトナム・フエおよびバンメトートにおける海産物や農産物の生産状況や日本との関連に関するインタビュー調査などを実施した。 以上の調査をふまえると、技能実習生の帰国後を見据えた技術指導や日本語学習支援の仕組みを、企業、受け入れ機関、市民団体、行政が協働して整備することが喫緊の課題である。現行の外国人技能実習制度において、こうした視点は希薄であり、そうした仕組みづくりの実現に向けた条件の索出が求められる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、上記した通り、国内における調査とベトナムにおける調査を実施した。これらは、当初から計画していたものに加えて、データ収集の過程で新たな調査が必要であると判断して行われたものである。 まず、日本での調査について述べると、静岡県浜松市では、調査への協力者に恵まれ、日本語教室の実施状況やその意義などについて検討することができた。また、岡山県美作市では、企業のほか、自治体が技能実習生の受け入れや技能実習生と地域住民の交流事業に積極的に取り組んでいることが明らかとなり、中山間地域における技能実習生の受け入れに関して、多くの示唆を得ることができた。 また、ベトナムでの調査については、駄田井の勤務先である岡山大学がフエ大学と大学間交流協定を締結しているため、調査の実施に必要な多くの支援を受けることができた。それによって、現地の漁村に関する基礎データの収集と、フエ大学の学生に対する質問紙調査の実施が可能となった。さらに、バンメトートにおいて、帰国した元技能実習生が就労する農業法人に対する調査を行ったことにより、農業を介したベトナムと日本の連携および農業技術移転を通した国際貢献の可能性について、検討する機会に恵まれた。 以上から、本研究はほぼ順調に進行しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる29年度は、これまでの知見をふまえたうえで、主として以下の3点に関する調査研究を実施し、外国人技能実習制度のありようについて考察を深めたい。 第1に、技能実習生の帰国後を見据えた技術指導や日本語学習支援に向けたシステムの構築についてである。技能実習生が日本で習得した技術や日本語の能力を帰国後に十分活用し、現地社会の産業発展に寄与することが、外国人技能実習制度の本来の趣旨である。こうした国際貢献の理念をより実効性の高い取り組みにつなげていくためには、いかなる主体がどのような活動に従事することが必要かを検討したい。そのために、岡山県美作市などを事例とする地域調査を継続するほか、各地の日本語教室や企業を対象とする実態把握調査を行う。また、ベトナムで元技能実習生を採用している農業法人や他の現地企業においても、データ収集を行う。 第2に、ベトナムの大学生を対象に実施した質問紙調査のデータ分析により、今日のベトナム人若年層がいかなる職業観や海外渡航に関する意識を持っているかについて明らかにする。また、ベトナムの大学において、日本での就労を支援している人物に対するインタビュー調査を行い、技能実習生としての人材確保をめぐる現状と課題について情報を収集する。 第3に、ベトナムにおいて、日本向けの農産物や魚介類の生産が盛んになるとともに生じた急速な生産システムの変容が、当該社会の構造と住民生活にどのようなインパクトをもたらしているのかについて分析を進めたい。フエなどの農家や農業法人における調査を今後も継続することにより、フードチェーンのグローバル化による海外市場への参入が海外移住者送り出し社会に変化を促すメカニズムとその課題を解明する。 以上の調査研究の成果については、今後、学会報告や論文執筆などによる公表を積極的に進めたい。
|
Causes of Carryover |
ベトナム・フエ大学における海外就労や職業観についての質問紙調査の実施にあたり、質問紙の印刷費やフエ大学の調査協力者に対する謝金が、当初見積もっていた金額よりも低くなったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も、引き続き質問紙による補充調査を行う予定であり、その際の印刷費および協力者に対する謝金として、前年度からの繰り越し分を使用したい。
|
Research Products
(7 results)