2017 Fiscal Year Research-status Report
水俣病多発漁村住民の水銀暴露と健康障害および補償給付の連環の実証的研究
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15K03905
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
井上 ゆかり 熊本学園大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (10548564)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水俣病 / 水銀曝露 / 漁業 / 健康被害 / 補償給付 / 医学的調査 / 社会学的調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、水俣病被害住民の過去に測定された毛髪や臍帯の水銀値からみた系統的な汚染暴露調査、ならびに原田正純らが行ってきた健康調査カルテによる漁民の健康障害の検討を行い、実際に受給している補償救済(給付)状況との連環(ループ)を検討するものである。その結果から、医学面から定義される水俣病の限界と新たな社会的課題を「水俣病とは何か」の再審という問題構成の中で明らかにすることを目的としている。 本年度は、熊本地震の影響で昨年度取り組むことのできなかった水俣市茂道でのヒアリング調査、とくに補償救済状況、親族関係、漁業の変遷などについての補充調査を行った。このヒアリング調査の一部は『水俣学研究資料叢書Ⅵ 不知火海の漁師聞き書き』として刊行した。芦北町女島の調査結果の一部は『いま何が問われているか 水俣病の歴史と現在』で報告した。 そのうえで、芦北町女島と同様に水俣市茂道の地図を作成し、親族関係や補償救済状況をマッピングし、水俣病被害の視覚化と比較調査の検討材料とした。さらに、1970年に原田正純らが不知火海沿岸住民の健康調査を行った検診録を使用し、水俣市茂道の対象者を抽出、対象者の神経症候、疫学内容をデータ入力した。また、熊本県衛生研究所が行った毛髪水銀値のデータと照合し、存命で医学的調査が可能な対象者の有無を検討した。これらの作業に膨大な時間と労力を要したことから医学的調査を実施するには及ばなかった。また、水俣市茂道における、毛髪・臍帯水銀値と水俣病の有病率、水銀濃度と水俣病発生の連環を統計学的に解析するに及ばなかったため学会で報告するに至らなかった。これは次年度に実施する予定である。そのため旅費などとして予定していた330,000円を次年度に持ち越すことになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、水俣病に関する漁村における社会科学的研究が少ないだけでなく、毛髪や臍帯水銀値、健康障害、補償救済状況という3つの連環を把握し、水俣病被害そのものを捉えなおす試みは本研究が初めてであり、研究の蓄積が極めて少ない中での課題設定である。これまでの研究の蓄積が少ないことの理由に、被害当事者や家族への接近が困難だけでなく、水俣病多発漁村で水俣病そのものを語ることが極めて難しい点があげられるが、水俣病被害者からの絶大な信頼を得ていた原田正純医師とともに調査研究に従事してきたため、現地における関係者の協力を得られるばかりでなく、漁民の信頼を得ていることにより、地の利を活かした調査研究を進めることができている。 本年度は、熊本地震の影響で昨年度取り組むことのできなかった水俣市茂道でのヒアリング調査の補充を行い、さらに親族関係や補償救済状況をマッピングし、水俣病被害の視覚化と比較調査の検討材料を作成した。また、原田正純らが不知火海沿岸住民の医学的調査を行った検診録から、水俣市茂道の対象者を抽出、対象者の神経症候、疫学内容をデータ入力し統計学的解析の基礎を作成した。このデータと熊本県衛生研究所が行った毛髪水銀値のデータを照合し、存命で医学的調査が可能な対象者の有無の検討に時間を要したため、医学的調査を行うまでに至らなかった。これについては、次年度に集中して行う予定である。これまで行われてきた種々の調査資料から漁村における毛髪水銀値、ならびに漁民の健康被害の状況について統計学的解析の基礎資料を作成したことは、「水俣病とは何か」を再審するための足がかりとなったため本調査の意義は大きかった。住民協力のもと、ヒアリングと医学的調査は継続しており、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、水俣病事件において未だ水俣病の病像論が議論されているなかで、水銀汚染と水俣病の有病率、健康障害や補償救済制度の連環から漁村における水俣病被害そのものを捉えなおすことで研究目的を達成する。こうした作業を経て水俣病事件における研究方法の一般化を図ることになる。 次年度は、これまでの基礎資料をもとに統計学的解析を行い、毛髪・臍帯水銀値と水俣病の有病率、水銀濃度と水俣病発生の連環を検討する。また、医学的調査が可能な対象者の医学的調査を集中的に行い、漁民の健康被害の把握に努める。あらたに水俣市茂道で戦前から戦後にかけて漁業を営んできた漁民の売上票や日誌を発見したため、漁村社会の把握に努める。 ヒアリング調査は、痕跡を辿れるよう録音のうえ文字化し、追加ヒアリング調査に反映させる。調査の過程において、新たに臍帯や毛髪が発見された場合は、本人または家族の了承を得たうえで水銀測定を依頼する。統計学的解析成果は、水俣学研究センターの定例研究会で討議し、学会報告を行う。
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Causes of Carryover |
(理由) これまでに蓄積された毛髪水銀値のデータと医学的調査結果のある対象者のうち、存命で医学的調査が可能かを検討するのに膨大な時間と労力を要したことから医学的調査を実施するには及ばなかった。また、水俣市茂道における、毛髪・臍帯水銀値と水俣病の有病率、水銀濃度と水俣病発生の連環を統計学的に解析するに及ばず学会で報告するに至らなかったため330,000円を次年度に持ち越すことになった。 (使用計画) 次年度は、アルバイト雇用し、新たに発見された売上票や日誌のデータ入力のためアルバイトを計上している。旅費については、水俣市茂道でのヒアリング、必要に応じ医学的検診を行うため、研究協力者の旅費を計上している。また中間的な研究成果報告のために、日本公衆衛生学会の旅費を計上している。ヒアリング調査は、録音や記録をし、録音データはトランスクリプトし記録に残すため、データ量1時間あたり1万2千円の業務委託で算出している。臍帯・毛髪水銀測定は、従前より水銀ラボ(赤木洋勝氏)に業務委託しているため計上した。
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Research Products
(3 results)