2016 Fiscal Year Research-status Report
福祉意識の構造と変容に関する比較福祉レジーム的研究
Project/Area Number |
15K03908
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武川 正吾 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40197281)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 高福祉高負担 / 社会保障 / 福祉意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は年齢別に分類した、社会保障全体の負担と給付の規模に関する態度の推移の分析と個別の社会保障の負担と給付の規模に関する態度を左右する要因の分析を50歳以上と50歳未満の年代別に実施した。 まず平成27年12月に日本リサーチセンターに委託して1,200名を対象に実施した調査結果の分析を、平成27年度の分析に加えて、年代別に分類して行った。そして平成12年、17年、22年に実施した同様の質問項目が含まれている調査と社会保障全体の高福祉高負担支持の割合の推移を年代別に分析した。 さらに平成25年1月に15歳~79歳までの男女1,200名を対象に実施された第483回NOS調査のデータを用いた分析を、個別の社会保障分野毎に分類し、また年代毎に分類して行った。これまでの研究のように社会保障全体だけではなく、個別の高齢者向け社会保障制度についても、税金や社会保険料を引き上げてでも給付を増やすべきであるという高福祉高負担の考えが、どのような社会経済的属性によって左右されるのかを分析した。具体的には年金、高齢者向け医療、介護という3つの社会保障の分野に対する高福祉高負担を支持する態度について、上記のように税金や社会保険料という財源の負担も念頭に置いた質問項目を使用することで、社会保障の分野別の負担と給付のバランスに対する態度の要因について検討した。社会経済的属性としては、性別、学歴、世帯収入(世帯員の人数で調整)、同居の世帯人は誰かという独立変数を用いて、社会保障の分野別の高福祉高負担に対する態度をどの程度左右するのかを確認した。 そしてこのデータを用いて政府に対する信頼と社会保障の規模に関する態度との関連の分析も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず平成27年12月に実施した調査データについて年代別に分類した社会保障の負担と給付の規模に関する態度についての分析の結果を、過去3回の同様の分析の結果と比べてみると、いずれの年代でも高福祉高負担の支持の割合は最低レベルを記録している。一方若年世代では高福祉高負担支持の程度が調査の年度毎に大きく変動しているのに対して、社会保障からの給付を受ける側面の大きな高齢者世代は若年世代と比べて変動が少ない。 さらに平成25年1月に15歳~79歳までの男女1,200名を対象に実施された第483回NOS調査のデータを用いた個別の社会保障分野毎、年代毎に区別した分析の結果をみると、高齢者を対象にした社会保障の受益者もしくはそれに近い50歳以上の年代の者は、いずれの社会保障制度に対しても高い世帯年収の者ほど高福祉高負担の考えを支持する傾向が見られる。ここに社会保障の便益を享受する段階になると、高収入の者ほど財源である社会保険料の負担が楽になるため高福祉高負担を支持するという、日本の高齢者向け社会保障の現状の影響を読み取ることができる。一方、社会保障の財源の負担者である側面の強い50歳未満の年代については、個別の社会保障制度の負担と給付のバランスを左右する社会経済的な変数はなかった。この分析に関する研究成果としては、平成28年度に『厚生の指標』に投稿し、査読の結果、平成29年度に掲載されることが決定された。 またこの平成25年1月に実施した調査のデータを用いて、社会経済的属性の影響を統制しても、政府に対する信頼度の低さが現金給付の社会保障制度を中心に、高福祉高負担に対する否定的な態度を強めていることが明らかとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
年代別にみても社会保障における高負担高福祉という所得再分配の規模の拡大を支持する者の割合が2015(平成27)年は2000年以来最低となっていることや、個別の社会保障制度については社会保障の受益者である側面の強い高年齢層の者ほど高福祉高負担を支持する割合が高いという平成28年度の分析結果を踏まえて、平成29年度は、社会保障の負担と給付という再分配の規模だけでなく、再分配の方法(普遍主義か選別主義かなど)に対する意識についても年代別に社会経済的状況との結びつきを、多変量解析を用いて分析を行うことを予定している。同じような社会保障の規模であったとしても、給付を受けるための財源の負担のありかたをどのように設計するかで、財源の負担の主な担い手である若年層や給付の中心である高年齢層からの社会保障制度に関する支持が変化する可能性がある。さらに世帯収入等の社会経済的属性によってもこれらの負担と給付の配分方法という制度設計に対する支持が左右される可能性がある。これらの点を確認するために、上記の平成27年度に実施した調査で多くの質問項目が含まれている負担と給付の配分方法に関する質問項目について、年代別、社会経済的属性別の分析を行う予定である。 次に政府や官僚に対する信頼度が、社会保障制度における高福祉高負担に関する態度と強く結びついているという平成28年度の結果を踏まえて、社会保障の負担と給付の配分方法に対する態度が政府に対する信頼とどのように結びついているのかについての分析も平成27年12月に実施した調査のデータを用いて行う予定である。どのような負担と給付の配分ならば政府に対する不信感を乗り越えて給付を拡充することが可能なのかを実証的に検討したい。
|
Causes of Carryover |
データ分析のために想定していた研究協力者が多忙なために当初想定していた協力が得られなかったことと、分析作業を遂行しうる研究員の作業時間を確保できなかったため。人件費・謝金の支出は予定より少なく済んだが、計画はおおむね遂行できた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度への繰り越し分は、データ分析作業のための人件費、学会における情報収集や研究成果発表のための費用に充てる予定である。
|
Research Products
(1 results)