2015 Fiscal Year Research-status Report
地域における就業困難者に対する「就労支援」の意義と役割に関する調査研究
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15K03920
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
阿部 誠 大分大学, 経済学部, 教授 (80159441)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 就労支援 / 就労困難者 / 生活困窮者 / 障害 / 地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、就労支援団体やそのスタッフ、被支援者、自治体などの当事者が、実際の「就労支援」の取り組みにおいて、どこに目標におき、どのような活動を行っているのか、また何を成果として理解しているのかなど、就労支援の実態を把握したうえで、就労支援に関わる当事者間の理解や評価の齟齬、あるいはニーズのズレなどに着目して、就労支援が抱える困難さを整理するとともに、地域社会において就労支援が果たす役割について考えることを目的としている。 今年度は、就労支援に取り組んでいる新潟市のささえあい生協新潟と伴走舎および京都市の京都自立就労支援センターにおいて、その目標や取り組み内容などについて聞き取りを行い、これらの団体の活動内容や目的などを把握した。大分県内においても、臼杵市をはじめ、いくつかの地域、自治体で就労支援の取り組みについて聞き取りを行った。また、各地域での就労支援に取り組む諸団体の代表を招聘したシンポジウムを組織し、座長を務めた。 これらを通じて、就労支援団体の考え方や支援方法、また、その主たる対象者の像や支援枠組みなどが多様であることを把握した。そのうえで、支援対象者のアセスメントのあり方、就業支援における段階的な支援、仕事の開拓などが、共通した論点として浮かび上がる。一方、就労支援の枠組みの一つとして、障害者の就労支援がある。実際には就業困難者には、多様なかたちの「障害」が認められることが多いが、障害の認識は人によって異なる。そうしたなかで、障害の把握・認識が出発点となる障害者の就労支援の枠組みは、必ずしも実態にあっていないことが明らかになった。その点では、「就業困難者」の属性を出発点とするのではなく、就労のニーズ・意欲を基本にした就労支援の枠組みが検討される必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた新潟市、臼杵市という2つの地域での就労支援の取り組みに関する聞き取りに加えて、京都市での取り組みについて聞き取りを行うことができた。さらに、シンポジウムで座長を務めたことを通して、ほかの地域での就労支援の取り組みについても、情報を得ることができた。ただ、支援スタッフへの聞き取りや事例の把握は十分ではないので、今後は、この点をさらに進める。 一方、本研究では、生活困窮者や就業困難者にたいする就労支援を調査研究することを課題としているが、聞き取りのなかで、就労支援では障害者にたいする就労支援が政策的にも進んでおり、研究蓄積が多いという認識をもち、今年度は、障害者の就労支援について従来の研究成果の整理を進めた。 また、今日、社会保障において社会サービスの重要性が高まるなかで、地域や自治体の役割が従来以上に重要になっている点ををふまえ、生活困窮者にたいする就労支援などの事例にもとづいて福祉社会における社会サービスのあり方について、第11回社会保障国際論壇(ソウルで開催)で研究報告を行った。この報告で、就労支援に関する調査研究の成果を生かすことができた。 このような点で、本研究の1年目はおおむね順調に進んだということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、地方圏で就労支援を進めている組織の聞き取りをさらに進め、事例の収集に努める。計画を一部見直し、宇都宮市、釧路市などでの聞き取り調査を予定しているが、ほかにも興味深い事例を把握しており、対象地域をつねに見直しつつ、聞き取りを進める。このなかで、できるだけ具体的な支援事例を収集する。 そのうえで、調査した団体のなかから二団体について、就労支援に取り組んでいるスタッフが、就労支援の目標と成果をどのようにとらえているか、聞き取りを行う予定である。一方、被支援者にたいする聞き取りによって、支援の評価を聞きたいところであるが、困難が伴うことが予想されるので、当初から代替案として考えていた通り、支援側を通じて被支援者の評価を聞くことになると思われる。 また、就労支援の政策的枠組みを整理するとともに、とくに生活困窮者自立支援法の下での就労支援について、地方自治体の対応や取り組みなどについて聞き取るとともに、自治体としての目標や成果などの評価を把握する。あわせて、職場見学・就労準備・訓練などを受け入れている協力企業・NPOなどにたいし、受け入れの経過や考え方、受け入れるうえでの問題点などについて聞き取る。 これらの調査を踏まえて、就労支援の実態とその評価を整理し、就業支援の意義・役割や限界、課題などを明らかにする。同時に、文献研究などを通じてヨーロッパ諸国のアクティベーションの政策について理解を深め、就業の困難な人々の求める支援のあり方や政策的枠組みについて考察する。
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Causes of Carryover |
物品費のうち平成27年度中に予定していたノートパソコンの購入を翌年度に回したこと、また、研究の初年度のため図書の選書が遅れ、年度内に購入が進まなかったためである。パソコンは今年度中には購入する必要があると考えている。図書は、いずれにしても研究期間中に必要となるので、選書を進めている。また、謝金については、調査補助・資料整理等で支出予定であったが、平成27年度の調査では調査補助者を使う必要がなかったため、支出がなかった。一方、旅費についてはほぼ予定した通り支出した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費については、予定していたノートパソコンを平成28年度に購入することを計画している。図書も、文献の整理にあわせて選書を進め、順次購入してゆく予定である。一方、平成28年度は本研究の中間年であり、調査を積極的に進める必要がある。調査では、遠隔地での調査、調査日数の増加などが見込まれ、調査等のための旅費の支出は増大することが予想される。このため、謝金については、調査補助や資料整理などを極力縮小して、支出することにしたい。ただし、謝金のうち専門知識の提供などは、研究の進展に合わせ予定通りに支出する。このように研究の進展、とくに調査の進行にあわせて、謝金の減額と旅費の増額など費目の一部見直しをしつつ、研究費を使用する計画である。
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Research Products
(2 results)