2015 Fiscal Year Research-status Report
地域福祉での対話的行為の実践的展開に関する調査研究
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15K03932
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
小野 達也 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (30320419)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 地域福祉 / 対話的行為 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、地域福祉が本格化している状況下での地域福祉実践の方法を探究することを目指している。特に地域福祉で対話的行為を活用することで「成果の向上」や「実践での客体化を生まない」ための検討を行う。 研究を通しての到達目標は次の2点である。①地域福祉実践での対話的行為の活用実態を把握し、それを規定している要因を抽出し、利用を促すためのモデル構築を図る。②地域福祉実践で、問題を抱える当事者を含む関与者がコミュニケーションに障害を抱える場合にどのように支援を行うかを明らかにする。 平成27年度の計画として前半には、地域福祉実践や対話的行為に関する文献や資料の収集を行い調査の組み立てを検討をする。また、具体的ないくつかの地域の活動者と連絡を取りながら質的な調査の準備を進める。そして、後半には援助者に対する質的な調査を実施する。 平成27年度の取り組みとして、一定程度の文献や資料を集めることができた。対話的行為については、ハーバーマスのコミュニケーション的行為を参照にしているため、海外の文献についても収集を行った。また、地域の実践については、増進的な性格の事例を中心に収集した。さらに、これらの文献や資料の分析についても一定程度進めている。 地域実践の質的な調査については、地元の大阪だけでなく、島根県松江市や福岡市での調査を進め、データの収集を行うことができた。松江市では、住民の取り組みについて、福岡では社会福祉協議会の職員について、大阪ではその両者について調査を進めた。その結果、地域実践に関して、自発的な取り組みの影響や支援者の情報共有の重要さということを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献や資料収集については、想定以上に進めることができた。ただし、その文献や資料の分析や検討はまだ終了していない。対話的行為に関する基本文献の整理は進んでいるが、具体的な取り組みにかかわる資料についてはさらに検討が必要である。また、地域福祉実践の性格としても、今後の動向を見据えてよりポジティブな志向を持つ研究に関する文献・資料の収集にも広げている。 調査については大阪、島根県松江市、福岡などいくつかの先進的な地域での取り組みを対称に進めている。大阪でのコミュニティソーシャルワーカー、松江市での地域住民による福祉医療問題への取り組み、福岡の社協職員のコミュニティワークの活動などである。ただし、方法としては事例調査となっており、研究計画当初に考えていた半構造化面接やフォーカスグループの実施とは別の方法となっている。これは、現時点では関係者へのインタビュー調査よりも、まず取り組み実態を明確化することが重要な段階と判断したからである。こうした実践事例を通して、対話的行為の阻害要因や促進要因の考察を進めている。具体的には、地域で活動をするワーカーは対話的行為を生み出す上で貴重な役割を担っており、それも専門職主導や利用者主導に終わらない態度を持つことが対話の促進に影響することが見えてきている。地域での援助に関して、コミュニケーションに障がいがあり、支援が必要な場合が多いことも確認されている。認知症をはじめとする高齢者、身体的・知的障害者、外国人等に関する課題である。コミュニケーション支援の方法の開発が求められていることが明らかになった。 このように一部修正はあるものの、研究全体としては、概ね順調に進展していると言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目の取り組みを踏まえつつ、当初の計画に沿って研究を進めていく。2年目となる平成28年度の前半では、質的調査を継続し、より深く課題を追究する。各地で取り組まれている地域福祉の実践にかかわる対話的行為の実態を把握していくことが中心となる。それぞれの取り組みを分析しつつ、対話的行為の阻害要因や促進要因を探っていく。さらにコミュニケーションに障がいがある場合の支援のあり方に留意し、探究を進める。このために、より的確なテータが得られるように、調査対象の見直しを行う可能性がある。その際に文献、資料検討から得られた知見を活用する。したがって、文献、資料収集はこの時期も同時並行的に継続していく。 平成28年度の後半では、質的調査のまとめの分析と量的調査の実施準備に取り組む。質的調査からは、対話的行為に関する阻害要因と促進勝因についての仮説を生み出すことを目指す。また、コミュニケーション支援に関しても状況に応じた方法を整理する。こうした質的調査の成果をもとにして、量的調査の準備を進める。量的調査は大阪で行うことを予定している。地域で活動するコミュニティソーシャルワーカー、コミュニティワーカー、地域包括支援センターの職員などを対象にする。ここでは地域の実践での対話的行為の活用の現状、その進め方、活用に関して影響を与える要因などを明らかにすることを目的とする。また、こうしたワーカーが対話的行為に関してどのように考えているのかについても状況の把握を行う。
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Causes of Carryover |
費目的に、旅費については概ね予算どおりの執行となったが、人件費・謝金の執行額が低く、差額が生じた原因となっている。これについては、調査方法で、事例調査が中心となった影響が大きい。当初のインタビュー調査であれば、それに対する謝金やテープ起こし等に対する謝金が発生するのに対して、今回の方法ではその部分が減額されたことになる。また、資料整理の人件費についても、結果的に抑えたものとなってしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
差額分については、平成28年度に行う調査で使用を考えている。予定していたインタビュー、テープ起こしをすることで、この費用を使うことになる。また、資料整理を進めるための人件費として活用する。
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