2016 Fiscal Year Research-status Report
認知症に罹患した知的障害者が安心して生活できるケア方法の確立に関する包括的研究
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15K03951
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Research Institution | Seigakuin University |
Principal Investigator |
木下 大生 聖学院大学, 人間福祉学部, 准教授 (20559140)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 知的障害 / 認知症 / ダウン症 / 非ダウン症の知的障害者 / 認知症様症状 / 支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、日本の障害者支援施設に入所する認知症様相症状がある知的障害者の現状及び支援課題を明らかにするため、4つの調査・研究(研究1~研究4)を行った。第1研究は知的障害者の認知症についての疫学的な経年調査、第2研究では知的障害者に現れる認知症様相症状の整理、第3研究では支援の実態に関する調査、第4研究では支援課題の調査を行った。以下各研究の詳細を示す。 第1研究は、障害者支援施設に入所する知的障害者で、医師から認知症の診断を受けている人、診断はないが施設の支援員等が認知症ではないかと判断した人の数を2010年に行った調査結果と、今回行った調査結果を経年的比較した。 第2研究は、認知症様相症状がある知的障害者の具体的な認知症様相症状を明らかにすること、また支援の中で認知症様相症状の発見に繋がる情報となることを考え、認知症を疑う契機となった症状と、出現した認知症様相症状について質問紙を用い、個別の症状について回答してもらうことによって明らかにした。また、ダウン症と非ダウン症を比較しそれぞれの症状の特徴を明らかにした。 第3研究では、障害者支援施設において認知症様相症状がある知的障害者を支援している施設に対し、支援の実際と課題についてのヒアリング調査・分析を行い,支援の実際と課題を明らかにした。 第4研究は、支援課題の一般化のため、障害者支援施設で認知症様相症状がある知的障害者の支援をしている104施設に対し、支援課題、認知症様相症状がある人に適した居住の場、また認知症様相症状がある人に関する自由記述の内容のアンケート調査を行い、支援課題の一般化、また認知症様相症状がある知的障害者が過ごすのに適した場が知的障害者支援に基盤がある施設等であるという調査結果を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、研究計画に記した平成28年度と平成29年度の研究予定を入れ替えて行ったことが大きな変更点であったが、研究の進行に支障はなく、29年度分に行う内容を概ね実施できた。研究概要にも記した通り、4つの研究から以下の結果を得ることができたため計画通り順調に進んでいると考える。 研究1では、①障害者支援施設に入所する知的障害者で認知症の診断がある人の割合は年々有意に増加傾向にある、②診断はないが支援員に認知症様相症状があると判断される人の割合も増加傾向にある、③ダウン症の人は非ダウン症の人と比較すると医師に認知症と診断されている人の割合が有意に高い、の3点の結果を得た。 研究2では、支援員が認知症を疑うきっかけとなる認知症様相症状は多い順から「言ったことを忘れる、同じ質問を繰り返す」(24.2%)「無気力・意欲がなくなった・表情がなくなった」(13.4%)、「仕事が出来なくなった、使い慣れた道具が使えない」(12.4%)等を明らかにした。 研究3では、①認知症様相症状への対応は,支援を通じて適応促進の試みや支援策が見いだされること、②認知症様相症状がある人を支援する際には指導的支援から支持的支援への価値転換に困難を来す場合があること、③直接支援での課題は症例等の知見の蓄積が十分ではない状況から生じていると捉えられること、④障害者支援施設で認知症様相症状がある人を支援することが想定されていないことといった制度未整備から生じる課題があること、の4点を明らかにした。 研究4では、①障害者支援施設では認知症様相症状そのものよりも、支援体制、環境から生じる傾向がみられたこと、②居住の場として適切であるのは,基盤は知的障害者支援を専門とした施設がより良いと考えられていること、の2点を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、研究計画で平成28年度に行う予定としていた研究内容、すなわちイギリスの認知症の特性がある知的障害者への支援の状況を調査によって明らかにすること、また、知的障害者用認知症判別尺度日本語版DSQIIDの精緻化を行うことであった。 しかし、平成28年度末より、知的障害児(者)の専門医(神経内科)より研究協力を得られることになった。そこで、信頼性・妥当性・感度・特異度に一定程度満足のいく結果を得られている日本語版DSQIIDの精緻化に変わり、より簡易な知的障害者用認知症判別尺度が医療現場においても支援実践現場においても求められているため、その開発の試みに切り替えて行くこととしたい。 また、イギリスの支援の状況についても、文献研究から一定程度確認することができた。したがって、計画していたイギリスにおける支援状況の調査を変更し、本研究の取り組みから見えたこの先の課題、すなわち日本における在宅で生活する認知症特性がある知的障害者、高齢知的障害者の生活実態、課題について明らかにしていくことに計画を変更する。 より簡易な認知症判別尺度の開発については、平成28年度に行った調査から、知的障害者に多くみられる認知症症状が示唆されたので、その調査結果を使用し作成していきたい。また、在宅で生活する認知症特性がある知的障害者や高齢知的障害者の生活実態、課題については、手をつなぐ育成会を中心にヒアリング対象をスノーボール方式で募り、明らかにしていく予定である。
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Causes of Carryover |
前年度の研究計画では、イギリスにおいて調査を行う予定でいたが、研究計画を変更したことによりイギリスでの調査を取りやめたため、その分の渡航費、滞在費、謝金等の支出が無くなったことが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、分担研究者として知的障害者を専門に診療する医師の協力を得られることになった。そこで、分担研究者と既存の知的障害者認知症判別尺度よりもより簡易な尺度開発を行うこととし、その開発のための経費としたい。また、それにより業務量も増加することが予測されるため、研究補助員を増加する予定であり、その人件費にも充てることとする。
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