2015 Fiscal Year Research-status Report
障害者のキャリア支援のためのポートフォリオとそれを拡充する実習場面の機能分析
Project/Area Number |
15K03989
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中鹿 直樹 立命館大学, 文学部, 准教授 (20469183)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
滑田 明暢 滋賀大学, 国際センター, 特任講師 (00706674)
望月 昭 立命館大学, 文学部, 教授 (40129698)
朝野 浩 立命館大学, 教職教育推進機構, 教授 (70524461)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | キャリア支援 / 就労支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、障害のある個人のキャリア支援を実現するには、対象者の情報を作成し関係機関で共有することが必要であるという前提に立ち、対象者の情報の作成・共有の仕方について1.ミクロ的な実践・実験的検討、2.マクロ的な調査の2つで検討することを目的としている。 1.ミクロ的な実践・実験的検討として、京都市西総合支援学校で実施されている「できますシート」の機能的運用を図るために、記述を促進するための要因を検討する実験を行った。援助付きの行動を適切に記述するためには、三項随伴性に代表される機能的な行動の記述例示、それも概念上の定義といった抽象的な記述ではなく、具体的な行動を示している例示を多く参照できることが効果的であるという結果を得た。 大学内模擬店舗に特別支援学校生徒を受け入れ、実習の支援を行う中で、模擬店舗が対象者のQOL拡大を支援する場面としてどのように機能しているかについて検討した。模擬店舗の利点は対象者に応じたさまざまな“試行”ができること、それを通じていくつもの“できる”を発見・記述可能なことであることはこれまでも示されていたが、今回はさらに、それ以上に「待つ」ことが重要なポイントであることが示された。「試すこと」「待つこと」は同時に成立しうることであり、相反することではない。また模擬店舗でなくとも試してみる、待ってみることは普段の生活や学校の中でも取り入れることができる支援といえる。 2.マクロ的な調査のために、全国の特別支援学校における就労実習の取り組みを調査した。具体的には、就労実習場面において、情報の記録と移行が実践されている取り組みがあるかどうかをインターネット上に公開されている情報をもとに探索した。本研究1によって実施されている実践・実験的研究の位置づけ、さらには情報を記録する際の様式と情報の移行の方法を検討するうえで重要な調査であったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べた2つの点から評価を行う 1.ミクロ的な実践・実験的検討 大学内模擬店舗においては、これまでの実習生徒とは違い、対象とされる業務自体は初めからよくできる(自立遂行率が高い)生徒さんという特徴があった。実習を進める中で、模擬店舗という場面の大きな特性が示されることとなった。すなわち、模擬店舗とは、実習生として利用する対象者に応じてさまざまな“試行”ができ、それを通じて“できる”を発見・記述することであるが、待つことが大きなポイントであることである。これまで実習では、試してみるという模擬店舗の特性を試してみることへの寛容さ(中鹿、2013)として表現してきたが、実習生が試してみるだけではなく、支援者が試すこと、待つことを許してくれる環境であることを示したのが大きな進捗であると言える。 またできますシートについては、記述のための要因について実験的に検証することで、よりシートの機能が明らかになり、記述を促進する具体的な方略が得られたことは研究のために大きな成果であった。 2.全国の特別支援学校を対象とした就労実習での情報についての調査 全国の特別支援学校における就労実習の取り組みを調査した。具体的には、就労実習場面において、情報の記録と移行が実践されている取り組みがあるかどうかをインターネット上に公開されている情報をもとに探索した。その結果、福岡県教育委員会において、高等学校から進学あるいは就職先に情報を伝える引継ぎシートを用いた取り組みが実施されていること、香川県、広島県などにおいて情報共有のためのサポートファイルが用いられていることが明らかとなった。一方、これらのシートやファイルを作成する時点で、どのように情報が記録、作成、共有されているのかについては、明らかにすることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
1.実践・実験的検討については、現在までの進捗状況で示した模擬店舗の特徴について、9月に開催される特殊教育学会で報告する。本研究の一つの目的である、情報の作成・共有ということについて社会に広く公表するという仕事を進めることが可能となる。模擬店舗については、本年も継続して実習生を受け入れ、模擬店舗の特性をさらに明確化、拡張化することを行っていく。 西総合支援学校で使われている「できますシート」について、本年度は大学院生を対象とした要因分析の実験的検討を行ったが、年度の後半から「できますシート」を用いたケース会議に参加して助言を行っている。この取り組みを本年度も継続する中で、実際の学校場面での「できますシート」の機能化について実験的な検討ができる予定である。 2.マクロ的な調査について、当初は全国の特別支援学校で行われる取り組みの調査には質問紙を用いる計画であった。しかし情報の記録と移行の取り組みについてより詳細な情報を得るために、まずはインターネット上にある情報から取り組みを行っている学校の情報をまとめ、その後にインタビュー調査を依頼する方針をとった。今後は、情報の移行や引継ぎについて詳細な情報を得るために、取り組みを行っている各自治体や学校へのインタビュー調査を実施することを検討、計画している。年度の終わりには、継続して参与観察・研究の対象となる特別支援学校の一つと提携することができたので、次年度は実習や情報について観察を行い、データを収集していく。学校に対しても提言をする形で研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
1.ミクロ的な実践・実験について、本年度は実習の実施を複数回予定していた。支援学校とも連携をしながら、年度末までにもう一度実施の方向で調整していたが、実習生の都合もあり中止となった。実習の実施が少なかったために予定していた使用額を次年度に繰り越すことになった。また学会発表についても、研究者の所属する大学で開催された学会での報告となったため、交通費等について予定より少ない支出となった。 2.マクロ的な調査について、当初は質問紙を用いた調査を予定していたために、出費を大きく見積もっていた。しかし情報の記録と移行の取り組みについてより詳細な情報を得るために、まずはインターネット上にある情報から取り組みを行っている学校の情報をまとめ、その後にインタビュー調査を依頼する方針をとった。これにより予定より少ない支出となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1.ミクロ的な実践・実験について、次年度も大学内模擬店舗での実習を予定しており、すでにそのための打合せを支援学校と進めている。実習を進めるために、模擬喫茶店舗で必要とされる消耗品や機材などに予算を使用していく。また前年度までの大学内模擬店舗での実習についての学会報告を行う予定であり、そのためにも予算を使用する予定である。 2.マクロ的な調査について、本年度の調査をもとに、より詳細な調査を進めるために調査対象となる特別支援学校を絞り、年度末より調査を開始した。今後、当該の学校との連携を進めるために交通費などでの支出を予定している。また調査についての学会報告も予定しているので、このために使用していく。
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Research Products
(7 results)