2016 Fiscal Year Research-status Report
中華圏における福祉NGOの事業展開に関する比較研究
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15K03993
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
横浜 勇樹 関東学院大学, 教育学部, 准教授 (30369615)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 慈善団体 / シンガポール / 華人 / 多文化共生 / 多民族国家 / エスニシティ / 移民 / 同郷 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目の本年は、東アジアにおける慈善団体の社会福祉サービスの今後の事業展開を考えるために、アジアにおいて経済活動が活発であり、また近年、中国や台湾と慈善活動で密に連携をとっている香港社会を取り上げた。研究方法は、これまで発刊された香港や中国の慈善団体に関する各種文献により、慈善活動の歴史、政府と慈善団体との関係などについて分析をおこなった。その結果、香港はイギリス統治下にある時代から大陸からの移民による互助活動が活発におこなわれた経緯があり、これが今日の香港社会の慈善団体の基礎となっていることが明らかになった。その一方で、政府による社会保障制度や社会福祉制度は日本のようには構築されておらず、民間の慈善団体にサービスの多くを委託している状況であった。また香港政府による慈善団体への補助金については、その時の経済状況が大きく影響しているため、政府が慈善団体のすべて支援している状況にはないことが明らかになった。現在、少子高齢化が進展している香港において、今後の香港政府と慈善団体の関係及び政府の福祉政策の展開が注視された。さらに今後中国の影響により慈善団体の活動がどのように変化していくかも注目された。 また北京市内のNGOの調査に関しては調査地の社会的な状況、特に外国人の調査の受入れが慎重であることから、本年はその調査地の選定と研究協力者との打ち合わせを再度おこない、次年度において調査をおこなうための準備を行った。その結果JICAの中国事務所などを通じて複数のNGOを候補地に選定し、調査を実施することとした。 さらに香港の調査においては、香港の社会福祉システムやソーシャルワーカーの養成がシンガポールのそれを参考にしていることが明らかになった。それによりシンガポール大学や南洋理工大学の研究者らと交流を深めることができ今後の研究が活動が大きく広がることに繋がった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、調査研究をおこなう予定であった北京市内のNGOの調査については、調査地において外国人の受入れ体制が慎重であったため、安全などを考えて再度、調査地の検討を行い、次年度において可能な限り実施することとなった。 一方、香港の調査においては香港のNGOである、香港ルーテル教会・社会福祉協会と連携して、児童福祉関係の施設については、障害児施設、児童養護施設、乳児院、不登校児童の支援施設、保護者のカウンセリングセンターなどを見学し、また高齢者施設においては認知症高齢者施設、特別養護老人ホーム、グループホームなどを訪問することができた。これにより、当該NGOが地域(社区)でどのように活動しているかを知ることができ、香港の小地域におけるNGOの存在意義とその展開について把握することができた。 さらに、香港の福祉NGOの調査を進めて行く中で、当該地域の福祉NGOがシンガポールの社会システムを参考にしていることが明らかになった。多民族国家であるシンガポールが社会システムの1つとして政府と福祉NGOがリンクして人々の支援をおこなっている点を香港は参考にしていることがわかった。私は、これまで主に東アジア諸国の福祉NGOについて注目していたところであるが、歴史をたどるとイギリス領であった、シンガポール、香港がイギリス式の社会方式を導入しながら、本国に復帰後もその制度を生かしながら社会保障政策、社会福祉政策を推し進めている点に、アジア諸国の福祉制度を考える際にはその歴史的背景、多文化性を考慮する必要があると新たな示唆を得たところである。
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Strategy for Future Research Activity |
中華圏における福祉NGOについて深く研究を進めるためには、広く華僑、華人を含めて中国系の人々が生活する国や地域において調査を進める必要があることが明らかになった。その理由は、中国政府(大陸)が今後どのように自国の社会福祉政策や社会保障政策を進めるかについて明らかにするためには、中国政府の施策だけを研究していても限界があると考えられるからである。その意味において、福祉NGOの活動が歴史的に見ても活発な香港を中心に研究を深めることが必要と考える。その研究においては、政治的には中国大陸と一線を画している、台湾の福祉NGOや社会保障制度の比較研究も同時に推し進めて行きたいと考える。 さらにこれまでの研究で明らかになった香港とシンガポールの華僑・華人のコミュニティにおける福祉NGOの活動についても調査をして行こうと考える。特にシンガポールについては中国から政府関係者がシンガポール国立大学や南洋理工大学に留学や研修をおこなっていることから、今後の中国の社会政策について見る時、シンガポールの政策を参考にしていくことも大いに考えられる。 同時に、ソーシャルワーカーなどの人材育成について見ても、例えば香港大学やシンガポール国立大学では古くはイギリス領の時代から人材育成が行われおり、それが今日に至るまで国の福祉の人材育成政策の1つとして成り立っているのである。そこからは、新たに福祉NGOの人材育成についても広くシンガポールや香港の政策などから、その地域の実情に応じた人材育成のカリキュラムなどについても研究を深めて行きたいと考えている。
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Causes of Carryover |
今年度は中国大陸の調査研究を進めるために旅費と謝金及び学会発表を予定していたが、調査地において調査を深く進めるための地域を選定したが、当初今年度、調査を予定していた地域において、外国人の当該地域においての調査の受入れが困難になった。そのため、本研究を安全を確保しながら確実に、また広く中華圏の福祉NGOについての調査を進めるためには、調査地を慎重に選定することが必要と考えられた。そのため当該年度においては調査を見合わせることとし、当初予定していた中国大陸における調査に係る必要な経費についての余剰が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においては現在、中国大陸の調査として昨年度実施することができなかった分の調査をするべく研究計画を立案している。具体的にはJICAの北京事務所と連携をして外国人であっても安全に確実に調査を実施し、その結果を国際学会などにおいて広く公表していく予定である。 一方、本年度の調査で明らかになった香港やシンガポールの中華圏における福祉NGOの活動と地域の福祉政策、人材育成については、これまでの研究成果からさらに発展させる必要性を考えている。そのため次年度の研究においてもシンガポール国立大学や南洋理工大学の研究者らと連携しながら、中華圏における福祉NGOの本質について深く調査を行っていきたいと考えている。
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