2017 Fiscal Year Research-status Report
アルコール嗜癖者の回復に寄与する援助グループは自助グループ的性格を有するのか ?
Project/Area Number |
15K04012
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Research Institution | Shigakukan University |
Principal Investigator |
松本 宏明 志學館大学, 人間関係学部, 准教授 (90625518)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 洋一 鹿児島国際大学, 福祉社会学部, 准教授 (20369185)
石井 宏祐 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (30441950)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アディクション / サポートグループ / アルコール / オープンダイアローグ / 家族療法 / 自助グループ / 対話 / チームアプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、援助者が関わる嗜癖者の「サポートグループ」が、回復に果たす役割の検証、および嗜癖者がグループを能動的に活用した回復モデルの提示にあった。このサポートグループの方向性について、本年度は、①臨床実践でのチームアプローチの活用という事例研究②近縁アディクションとしてのゲーム依存の家族会からの接近③サポートグループでの実践検討という3つの方向性から進めた。 ①臨床実践でのチームアプローチの活用は、松本ら(2018)での事例研究である。仕事や人間関係に悩む成人男性に対し、チームアプローチを活用し、自身のことを安全に語る対話的アプローチの可能性を提示した。本研究では松本(2017)で提示した、専門家のチームが訪問し、密な対話を重ねる実践であるオープンダイアローグの考え方を援用し、オープンダイアローグの背景にある多声モデルと、医療や教育で主流である中心主義的なモデルとの共存可能性への気づきとして、サポートグループの理論的基盤となる重なり合いを否定しない専門性、という方向性が実証的に示された。 ②として、松本ら(2017)では、平成28年6月に立ち上げたインターネット・ゲーム依存家族会の現状や実践での工夫、今後の課題を報告した。ネット/ゲーム依存の家族会はノウハウが少なく、試行錯誤の連続であったが、家族間で励まし学び合いつつ、回復への見通しが持てる場として、育てていくことを報告した。 ③サポートグループの実践検討においては、岡田(2017)がスタッフは、高い専門性を持ちつつ、それぞれの役割から敢えて降りることで、当事者の回復に貢献していることが考えられた。また、岡田ら(2017)においては、スタッフにとっても、回復を続けるアルコール依存症患者に出会うことのできるサポートグループは、回復の希望につながる場となっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、援助者が関わる嗜癖者の「サポートグループ」がアルコール嗜癖からの回復に果たす役割を、特に「自助グループ的な位置づけ」への認識から明らかにすることにある。 進捗状況の区分として「やや遅れている」とした理由は、主に研究環境の要因である。昨年共同研究者(岡田)が急病のため約2か月の入院加療を余儀なくされた。また、共同研究者(石井)が、佐賀大学に異動になったことで、研究体制の見直しが必要となった。 昨年度は、援助者のインタビューからグループの意義について、非審判的態度という方向性を得た。ただ、今年度は主に代表者による研究遂行が中心であり、当初の目的である、サポートグループが自助グループ的な意義を有するかの検討に際し必要と考えられる利用者への調査へは、至っていない。そのため、進捗状 況としては上記の区分となった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況において述べたように、本年度は、①臨床実践でのチームアプローチの活用という実践的な事例研究および②アディクションとしてのゲーム嗜癖の家族会という近接領域からの接近、③サポートグループでの実践検討という3つの方向性から進めた。平成28年度に行った理論的検討である対人援助領域における重なり合いを否定しない専門性、というオープンダイアローグの方向性が、実際に利用者にとって、意義あるものと捉えられていることを、事例検討を通じて明らかにした。また、サポートグループにおけるスタッフの専門性の位置と、スタッフ自身に果たす意義も、この重なりとしての専門性という方向性をおおむね支持するものであった。 補助事業期間延長承認申請が受理され、本年度が最終年となるが、ここにきて、この重なりとしての専門性という基盤が理論的にも実践的にも見えてきた。岡田(2015)で提示された、アルコール依存症の自助グループについて、ARPとSHGとの関係からの医療的支援と非医療的支援の重なり、また、松本(2017)松本ら(2018)で示した、オープンダイアローグの背景にある多声モデルと、医療や教育の主流である中心主義的なモデルとの重なり合いを否定しない専門性、という方向性である。最終年では、この重なりとしての専門性という方向性が、実際の参加者や援助者にどう認識されているかという観点から、実証的な調査研究を検討している。一方見えてきたこの重なりとしての専門性という方向性については学際的な理論的基盤も必要と考えており、人文・社会科学領域における学際的な理論検討についても、合わせて検討していく。
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Causes of Carryover |
すでに補助事業期間延長承認申請を行ったとおり、研究分担者(岡田)が、平成29年2月から心臓疾患により療養を必要としていたため、平成29年度の研究計画を完遂できなかったため、次年度使用額が生じた。また、次年度使用計画としては、すでに述べてきたように、サポートグループの理論的基盤というなる重なりとしての専門性という方向性が、実際の参加者や援助者にどう認識されているかという観点から、実証的な調査研究を検討しており、そのための調査費用として想定している。
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Research Products
(7 results)