2015 Fiscal Year Research-status Report
児童養護施設の心理職の育成プログラムの開発-現職心理職の補完的教育を目的として
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15K04013
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
若本 純子 佐賀大学, 文化教育学部, 准教授 (60410198)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 児童養護施設 / 心理職 / 専門教育 / 地域支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は,1)児童養護施設心理職に必要な専門性の同定,2)専門教育のあり方,3)施設心理職の専門教育の現状と評価等に関する質問紙調査を実施し,補完的育成プログラムの基盤的知見を得ることを目的とした。文献,先行研究をもとに項目を作成し,調査対象は,施設心理職と心理職の養成を行う大学教員等とした。個別郵送・返送による回収は心理職313(51.7%),養成者65(32.7%)であった。 心理職は男女比1:2,年齢Med.30代で,臨床心理士有資格者が約5割,施設心理士として約5年2か月勤務していた。職務内容は心理面接・遊戯療法が圧倒的に多く,他職種への助言・指導が続いた。この傾向は施設側のニーズと合致していた。一方,困り感が高かった職務内容は,問題発生時の危機介入が突出し,続いて他職種への助言・指導であった。 入職後の専門教育の現状として,スーパービジョンの機会がある者は5割に満たず,7選択肢のうち最も低値であった。教育研修時間の年間計はMean約72時間,Med.約55時間,Min.2時間,Max480時間で,心理職に対する専門教育は十分とは言えず,機会の格差も顕著であった。 児童養護施設心理職に求められる専門性において,被虐待経験の理解と支援,愛着障害の理解と支援,知的・発達障害の理解と支援等が,心理職,養成者双方ともに上位であった。一方,心理職と養成者の重要度の認識に有意差があったのは,養成者が治療技法・支援技法を有意に高得点に評定したのに対し,心理職はアセスメント,知的・発達障害,愛着障害の理解と支援,ケースマネジメントと子どもに適した介入法,子どもの問題行動と発達段階との関連を有意に高得点に評定した。 望ましい専門教育のあり方に関しては,養成者は入職前・入職直後の教育を強調する傾向があったのに対して,心理職は学生時より定期的・継続的な教育を望む傾向にあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の質問紙調査に関してはほぼ当初計画の予定通りに進捗した。 ただ,全国児童養護施設協議会および児童養護施設606施設,児童養護施設に関する研究業績をもつ研究者45ならびに臨床心理士養成指定大学院専門職養成に携わる教員120に対して研究協力をお願いしたものの,総回収率が5割程度に留まり,当初の想定ほどのデータ数が確保できなかった。 また,4月に発生した熊本地震の影響により佐賀-鹿児島間の交通機関が不通となり,平成28年5月から実践プログラムを開始することが不可能になった。そこで,研究協力者にご了承をいただき,7月開始の4セッションのプログラムへと変更することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,計画当初の予定通り,補完的教育プログラムを実施し,並行して評価を行う。 すでに,鹿児島県児童養護協議会の協力を得て,7名の研究協力者が応募済みであり,現在,詳細な日程等の調整を行っている。 7月以降,隔月で計4回,1回6時間のプログラムを実施する。準実験型のプレ-ポストデザインでのプログラム評価を,プログラム終了直後と3ヵ月後に行う。指標としては,職務に対する満足感と自己効力感に対する効果を測定するために,1)自尊感情尺度(Rosenberg, 1965),2)母親としての自己効力感尺度(若本, 2013)をもとに「職務に対する自己効力感」へと改変した尺度を用いる予定である。 平成29年度は,プログラムの効果と規定因を検討し,本研究で開発したプログラムの効果を確定させる。そして研究成果を公開する。
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Causes of Carryover |
本研究の計画を立てた当時,研究代表者は鹿児島県の大学に在籍し,平成28年度の実践的研究における研究対象を鹿児島県の児童養護施設心理職とすべく了承を得ていた。しかし,本研究が採択された平成27年度より,佐賀へと異動になり,当初の計画から大幅な変更が必要になった。平成28年度の実践研究の準備,調整,実施のための交通費が予定に比して格段に必要となり,加えて,急な異動により研究補助者が確保できず,本研究の研究協力者である福永真理奈氏に,佐賀・鹿児島双方における全面的な研究協力を依頼し,研究遂行に差し支えないよう手配した結果,謝金・交通費も大きく膨らまざるを得なくなった。そこで,平成27年度は物品費を見直し,質問紙は自ら印刷する等極力予算執行を抑え,本研究の主眼である平成28年度の補完的プログラムが差し支えなく遂行できるよう,前年度予算を繰り越して使用することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は,実践研究を実施および準備・調整のための佐賀と鹿児島の往復を,2名分,4~8回行うが,熊本地震の影響により,航空機の利用もやむない状況にある。その場合,最も高額の場合480千円の費用がかかる予定である。ただし,新幹線の復旧次第によっては360千円にまで引き下げることができる。加えて,5月の北海道大学における学会発表に係る旅費135千円が確定している。研究協力者である福永氏に対する謝金は,月額100千円,年額1,200千円を予定している。福永氏には,共同研究者として,研究の準備から遂行,研究成果の公開のための論文執筆等に至り,研究全般に対して尽力いただくことになっている。
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Research Products
(2 results)