2016 Fiscal Year Research-status Report
貧困の“農村的”性格と貧困政策のあり方に関する調査研究
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15K04015
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Research Institution | The Japanese Red Cross College of Akita |
Principal Investigator |
佐藤 嘉夫 日本赤十字秋田短期大学, その他部局等, 教授 (20073033)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小池 隆生 専修大学, 経済学部, 准教授 (40404826)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 農村の貧困 / 規範意識 / 生活様式 |
Outline of Annual Research Achievements |
次の「現在までの進捗状況」で示したように,本年度予定した2つの調査(「貧困と規範意識に関する調査」「貧困と生活様式に関する調査」が実施できなかったので、これらの調査について、再度、調査の理論的仮説の吟味、補充を中心に研究会を計6回実施した。その1つは、規範意識の「農村的性格」を規定する農村の実体経済の特徴である非貨幣経済、現物経済、贈与経済に加え、生活意識を規定する要素としては、ストック(中でも住宅や土地、車などの資産)の重要性を再評価する必要があることである。2つめは、家計支出の特徴として見た時の、農村の地理的「不利」の典型としての社会サービスの偏在、寡少よる通院費の拡大や、社会生活の維持のための交際費など、「強制された」家計支出構造との関連に着目することである。3つめは、農村住民の権利意識だけではなく、生活保護制度などの社会規範の「厳格さ」など規範そのもののもつ性格が農村住民意識に与える影響の視点から規範意識を解明することである。4つめは、農村的な差別・分断構造の中にありながら、農村では「貧困」と「社会標準」の両面において、なぜ自己意識が低いのかを明らかにすることである。これらの、論点整理を踏まえて、「貧困と規範意識に関する調査」の調査票の再構成を行った。 2つ目の「貧困と生活様式に関する調査」は、前提となる「全国消費実態調査」の分析が、まだ途中で、仮説の論議に留まっているが、農村に特徴的な生活様式が、低支出・低消費型の家計構造を形作っているという視点のみならず、そうした生活様式が住民の規範意識にどのように作用しているかと観点から上記の規範意識調査の再構成を試みた。 また、この間の研究を通して、貧困の農村的性格を踏まえた貧困政策の在り方を、実証的に研究する上では、「農村」と対置される都市(中でも大都市)地域でのレファレンス・グループ(比較対照群)が必要との結論に至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初予定計画に対する28年度までの進捗も、28年度単年度の進捗状況も2割程度にとどまっている。主たる理由は、研究主フィールドであり、かつ本研究実施以前から協力関係にあり、第1、第2の調査を28年度に実施する方向で進めてきた岩手県岩泉町が、8月31日に水害に見舞われたことである。6月と8月に町の担当者との協議を行い、調査の準備を重ねて来たところであったが、今次の災害は、首相の現地訪問も含め、マスコミ等の連日の報道にもあったように、河川氾濫による住宅・各種施設、農畜産施設・農地、道路など町全域にわたる、東日本大震災の4~6倍にも達する甚大なものであった。調査の直接的な対象である町民が大きな被害を蒙ったことで、調査の実施を断念せざるを得ない状況に立ち至ったものである。 一方、同じ農村地域の対照群である岩手県西和賀町での調査は、28年2月に副町長、8月に担当課長と、2回の町との協議を経て、実施段階まで進んでいたが、岩泉での実施の可否や調査期日等の見通しがないことで、こちらもやむを得ず延期することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のような状況であるが、今のところ研究計画内容の変更はしない予定である。少しずつ町民生活も落ち着いてきたので、岩手県岩泉町での調査の実施については、一方では被害状況の確認を行いながら研究フィールドとしての妥当性が失われていないかどうかの検討を進め、他方では、町役場と協議を行いながら、調査実施の可否および時期を探っていく予定である。他の自治体等からの行政支援はあるが、町の29年度予算がこれまでの10倍にも膨らんだことで、行政との協議ならびに協力体制に不都合が生じることも想定されるので、7月までには結論を出す予定である。岩泉町での研究継続が困難になった場合には、岩泉町の隣接町である葛巻町に研究フィールドを変更する予定である。葛巻町も、岩泉町と同じ中山間地域であり、かつ貧困率も高い上に(生活保護の受給率は県下で第4位)、主研究者である佐藤が、岩泉町同様に調査研究や町の福祉政策への協力などを通して、良好な関係を維持してきた地域であるなど、本調査研究のフィールドとしての妥当性も十分に担保できる地域であると考えている。 一方、追加した都市型フィールドとしては、分担研究者の大学が存在する川崎市多摩地区で、小池のゼミ等の教育活動をとおしたかかわりの中で、行政および住民の協力が得られるかどうかの検討を始めているところである。 なお、研究計画全体に大幅な遅れが生じているが、岩泉町での実施の可否あるいはそれが不可能な場合の代替フィールドが決まれば、29年度内に2つの調査を終了することは可能と考えている。第3の調査(生計費調査)および取りまとめは、研究年度を1年延長して30年度に完了させたいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況で報告をしたように、本年度の主研究フィールドである岩手県岩泉町の 甚大な水害による2つの調査(実査)の中断(未実施)が大きな理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
調査そのものの準備は整っているので、「今後の推進方策」でも述べたが、岩泉町か葛巻町のいずれかで研究フィールドが確定次第、この部分は執行する計画である。
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Research Products
(1 results)