2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K04024
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村本 由紀子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00303793)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自己と他者 / 集団規範 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究が扱ってきた組織規範・文化の規定因や影響過程の問題に関連した幅広い議論の場として、「企業組織研究の最前線が抱える困難と可能性: 研究者と実務家、双方の視点より」と題するワークショップを共同企画し、日本グループ・ダイナミックス学会第63回大会で実施した。実業界からも3名の話題提供者を招き、組織と成員、ないし成員相互の動的な関係に関わる諸問題に焦点を当てた研究の成果発信と意見交換を行った。 また、大学院生の主導で過年度に実施・分析したWeb調査の成果論文や、学部学生らと共同で過年度に実施した実験室実験の成果を再分析・再構成した論文を、日本社会心理学会の学術誌『社会心理学研究』に投稿し、受理・公刊された。うち後者の論文では、能力の可変性に関する素朴信念(暗黙理論)が組織リーダーによるフォロワー評価にいかなる影響を及ぼすかを扱った。従来の研究では、努力すれば能力を伸ばすことができるという増加理論的信念を有するリーダーの望ましさがもっぱら論じられてきたが、本研究では、一人の成員が課題遂行に失敗した状況で、この信念を持つリーダーが、まだ当該課題に取り組んでいない新たな成員への期待を低めてしまうという知見が示された。論文では、集団リーダーの複数フォロワーに対する評価と実態とのズレが、その後のリーダーの差配と集団パフォーマンスに及ぼす影響について論じた。 さらに、集団成員の多様性(自他の属性の異同)の認知が集団の創造性や成員の感情に及ぼす効果を検証する実験室実験を、学部学生と共同で実施した。実験は4名一組で行われ、複数の属性に基づく成員のサブグループ化の強弱とその顕在化の有無が操作された。結果、これらの変数は集団創造性に直接の影響を及ぼさなかったが、強いサブグループ化が潜在的に生じている場合、それが顕在化した場合以上に、成員相互の関係の認知や感情がネガティブになることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、前年度から継続の検討課題として、集団規範の維持の鍵としての多元的無知を生じさせる先行因の重みづけ(どの要因がより重視されるか)が、成員間の関係の多様性や流動性等の社会環境や文化によっていかに異なるかを明らかにすることを目指してきた。さらに、自他の認知の連続性と境界に関する多面的検討の一翼として、自己や他者の能力(の可変性)に関する共有信念としての「暗黙理論」(e.g., Dweck, 1999)に着目し、学習者の能力に対する学習者自身と評価者の認知とそのズレがもたらす個人的帰結(学習者の暗黙理論の自己強化過程)、および社会的帰結(共有信念としての暗黙理論の維持過程)についての実証研究を行うことを目標の一つに掲げていた。いずれのトピックスについても、実験的検討およびその成果の発信については、おおむね順調に進展している。ただし、当初予定していた社会調査については平成30年度に持ち越された。最終年度となる来年度は、早い段階でこれを実現させたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度に当たる平成30年度は、これまでに得られた知見を現実の社会状況の中で改めて検証することを主たる目的として、一般サンプルを対象とした社会調査を実施したい。具体的な検討テーマは主として以下の2点である。①企業組織等において、組織規範に対する自己と他者の認識が不一致な状態(多元的無知)で維持されている事例を取り上げ、その生起と維持のメカニズムが、組織を取り巻く環境要因によっていかに異なるかを検討する。②自己や他者の能力に関する共有信念(暗黙理論)に日米差があるという先行研究の知見に焦点を当て、学校教育のシステムや課題遂行に際しての選択肢の多寡といった社会構造要因が、各々の社会で特定の暗黙理論をもつことを有利にしている可能性について検討する。また、これまでに実施した研究の成果を、カナダで開催されるInternational Association of Cross-Cultural Psychologyをはじめとする国内外の学会大会で発表するとともに、学術雑誌への論文投稿を行う。
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Causes of Carryover |
平成30年度に一般サンプルを対象とした社会調査を実施することを計画しているため、これに備えて、平成29年度受領額の一部を繰り越したものである。 上記の通り、一般サンプルを対象とした社会調査実施のための費用を支出する計画である。そのほか、従来同様、実験室実験のセットアップに必要なコンピュータ関連機器、データ分析のための統計ソフトの購入等を予定している。また、カナダをはじめとする国内外の学会における成果発表等のための出張旅費も必要となる見込みである。
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