2016 Fiscal Year Research-status Report
超低出生体重児における発達障害様症状の特異性と発症メカニズムの解明
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15K04061
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
金澤 忠博 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (30214430)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 超低出生体重児 / 発達障害様症状 / 発症メカニズム / 実行機能 / 周産期因子 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
平均年齢8歳の超低出生体重(ELBW)児47名を対象に心理検査を実施し、発達障害様の症状のスクリーニングを行ったところ、自閉スペクトラム症(ASD)様の症状がみられた児は25.5%であり、前回の調査(金澤ら,2014)より12.2%増加した。そのうち、ASDと診断された児は8.5%であった。注意欠如多動症(ADHD)様の症状は23.4%で前回よりわずかに増加した。一方で、知的障害と境界知能を合わせた精神遅滞の出現率は8.5%と前回の21.4%に比べ半分以下に減少した。限局性学習症(LD)様の症状の出現率も21.3%で前回よりもやや減少した。ASDの出現率が大きく増加した理由は不明であるが、ELBW児では通常のASDの発症率(1.47%)(CDCP, 2016)の17倍強の値を示したことから、遺伝的な要因が優勢とされる通常のASDとは異なる発症メカニズムの存在が強く示唆され、様々な周産期因子が後生的(エピジェネティック)に作用している可能性が更に強まった。2016年度の新たな分析の試みとして、IQが80以上であった極低出生体重(VLBW)児102名を対象として、実行機能の評価を行い、発達障害様症状との関連について検討した。実行機能の評定は、WISC-Ⅲの評価点を用いて「抑制」、「ワーキングメモリ」、「切り替え」からなる実行機能3要素の得点を算出した。実行機能の3要素と出生体重を独立変数、各発達障害様症状の程度を従属変数とする重回帰分析を実施した結果、ADHD、LDに対してはワーキングメモリ要素による有意な影響がみられた (p<.01) が、ASDでは出生体重による影響のみがみられた (p<.05)。VLBW児における発達障害様症状は、実行機能の面においても通常の発達障害と異なる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年度も、協力病院の検診体制の変更から、研究協力者の募集が停止されたため当初予定していたほどにはサンプルは集まらなかった。しかし、これまでに蓄積したデータの解析から、脳室内出血や慢性肺疾患などの周産期合併症に加えて、生殖補助医療や多胎出産が超低出生体重児の発達障害様の症状の発現に関わる可能性が見いだされた。また、実行機能の側面から新たに分析を行い、超低出生体重児の発達障害様症状の特異性が明らかになり発症メカニズムの解明につながるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
超低出生体重児の発達障害様症状の特異性と発症メカニズムの解明に向けて、更にサンプルサイズを増やしアイトラッカー等最新の指標を取り入れた多面的定量的評価を進めると共に、2016年度の分析で明らかになった実行機能の視点を取り入れ、分析を進める。また、これまでの分析で明らかになった脳室内出血、慢性肺疾患、未熟児網膜症などの周産期合併症の影響に加えて多胎出産や生殖補助医療の影響について、新たなサンプルを加えて分析を行う。後生的(エピジェネティック)なプロセスの関与を考慮に入れて分析し、超低出生体重児の発達障害様症状の発症メカニズムに迫る。
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