2016 Fiscal Year Research-status Report
認知粒度からみた自閉症とコミュニケーション:脳が他者を理解するメカニズムを探る
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15K04078
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Research Institution | Miyagi University |
Principal Investigator |
小嶋 秀樹 宮城大学, 事業構想学部, 教授 (70358894)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 自閉症モデル / 認知スタイル / コミュニケーション能力 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,自閉症・コミュニケーション・言語や文化の成り立ちについて,「認知粒度」の観点から統一的なモデル化を試みるものである。この目標に向けて,平成28年度では,この認知粒度とコミュニケーション発達の関係を,発達心理学および認知科学的な側面から考察し,その成果を学会等で発表し,関連する研究者との議論を深めることができた。 発達的な側面からは,他者に対する意図スタンス,すなわち観察可能な身体動作や発語などを何らかの意図の表出であるとして解釈しようとする姿勢が,どのような生得的制約のもとで,どのような環境とのインタラクションを通して形成されていくのかを考察した。他者との身体的・情動的な「つながり」が先にあり,やりとりの中で生じる効果(これを「意味」と呼ぶ)が内部表象化されることで,他者の行為から意図(他者は何を予測=期待してその行為を行ったのか)を読み取れるようになると考えた。予測や期待については統計的学習理論によって十分にモデル化できそうだが,他者がどのような予測や期待をしているのかを,間主観的に捉えるプロセスについては,まだ十分なモデル化ができておらず,より深い考察や心理実験が必要であることが明らかになった。 認知科学(認知ロボティクス)的な側面からは,実際の子どもの観察(保育園や自閉症療育施設での長期縦断的観察)や実験をレビューし,また関連研究者による観察(その多くは横断的な研究)や実験との比較などを進めた。とくにフランス側の研究パートナーとの協働から,言語的な能力にあまり依存しない「心の理論」課題の実験方法について議論を深める機会があり,これまで以上により若い月齢での認知発達を実験的に調査する道が拓けつつある。初期発達における意図的スタンスの萌芽について,同じ枠組みで実験できる可能性があり,その方法論的な精緻化を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は4年の研究期間を想定し,28年度はその2年目にあたる。 当初,28年度には,フランス側あるいはアメリカ側の研究パートナーを訪問し,実際的な議論や共同実験の準備を行う予定であったが,フランス側から(日本での国際心理学会大会に合わせて)来日していただく機会があり,日本で議論(とくに言語に依存しない「心の理論」課題の実験方法についての議論)を深めることができた。このため渡航しての協働は実施していないが,それを十分にカバーする有意義な成果を得ることができた。 また,国際心理学会だけでなく,日本発達心理学会や認知科学会などの国内有力学会で中間成果を発表することができ,関連する研究者との密な議論をもつことができた。とくに臨床発達に関わる研究者と広く交流する機会が得られ,観察フィールドの拡張や心理実験の実施などに,より現実的な協力が得られる見通しを持てたのは,予想外のよい収穫であった。 これらの進捗状況から,本研究はほぼ予定どおりの進度で,おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,神経科学および人工知能研究の観点から,これまでに得られたコミュニケーション発達モデル(とくに意図スタンスの発達プロセス)がもつ意味を実証的に探っていきたい。個々人は,それそれの脳のもつ認知粒度によって,周囲の世界を扱いやすい粒度で分節し,世界を知覚し世界に働きかける経験をとおして知識体系を構築していく。したがって,世界の捉えかたや予測・制御のしかたも,個々人(とくに定型発達者と自閉症者)で異なってくる。このような認知粒度の差異という観点から,自閉症者や定型発達者における認知スタイルの質的な違いや,定型発達者が意図スタンスを獲得して他者の心を想像できるようになる発達プロセス,さらには言語・文化の成り立ちまでをも解明していきたい。そのためにも,今後は,ミニカラム構造を前提とした脳における情報表現を詳細に検討し,そこから意図スタンスがどのように形成されるのかをモデル化する必要がある。それを基に,自閉症の病像について,認知粒度の観点から統一的な説明を与え,新しい自閉症療育への可能性についての検討を深めていく。最終的には,多数派(定型発達者)が使う言語(基本レベルカテゴリ)や文化全般(道具・制度・慣習など)といったものが,多数派のもつ認知粒度を前提として発現するプロセスを,工学的に再現可能なかたちで解明していきたい。
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Research Products
(6 results)