2019 Fiscal Year Research-status Report
教育相談における世代間伝達および聴き手の自己成長に関する質的研究
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15K04120
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Research Institution | Aichi University of Education |
Principal Investigator |
廣瀬 幸市 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10351256)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 教育相談 / 世代間伝達 / ナラティヴ / ライフストーリー法 / 自己成長 / 臨床物語論 / 臨床の知 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度にフランスで開催された国際コロックでの研究発表の内容を、ライフヒストリーを研究課題の中心とする国際雑誌(Revista Brasileira de Pesquisa (Auto)Biograica)に投稿し、掲載された。アジアにおける成人教育に関する特集号に掲載されたことで、我が国におけるライフストーリー成人教育に関する研究が国際的に研究者の目に触れられるようになった。これまで神戸大学を中心とした研究者とASIHVIFを中心に仏語圏の研究者とで12年間継続された、日仏ライフヒストリー国際研究会議の成果の一端が結実したものである。研究代表者は、研究協力者の森岡正芳氏の科学研究費補助研究「ナラティヴアプローチによる治療的意味生成過程に関する研究」「生活史法による臨床物語論の構築と公共化」の分担研究者として、この国際シンポジウムに参加して、仏語圏ライフストーリー研究者と接触を保ち続けてきた。 「成人教育におけるライフストーリー」叢書の一つとして仏大手出版社から出版計画されている内容も、この日仏ライフヒストリー国際研究の系譜に位置しており、日本におけるライフストーリー成人教育の発展を検証し、そのライフストーリー研究の現状に関する考察が求められている。個人・集団・地域における教育及び成人教育領域でのナラティヴ(伝記的)手法を用いた実践研究に従事する、ヨーロッパの研究者や大学院生との対話を目指す研究書が計画されていた。2019年中はメールでの遣り取りで進められていたが、仏研究者の編集代表者を2020年早々に招聘し、打合せを行った。その打合せにおいて、編集方針の確認および原稿締切などの日程設定を取り決めたが、あいにく編集代表者が帰国後まもなく始まったヨーロッパ全土を覆う新型コロナ・ウィルスが猛威を振るい、文化を始めとする日常生活全般が機能不全に陥ったことで、現在は棚上げの憂き目に遭っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2018年度に第一部の研究成果をフランスの研究者チームの学会(Colloque International: Les sciences humaines et sociales a l'epreuve du terrain)で発表したところ、仏語圏の研究者の反応が良かった。この学会の主催者に海外ジャーナル(Revista Brasileira de Pesquisa (Auto)Biograica)への投稿を強く勧められ、Universite de Toursに遠征した発表者チームで、我が国におけるナラティヴ研究および心理社会的実践に関する論文を投稿して掲載された。この誌上での発表も好評に迎えられ、今度はライフストーリー成人教育の大御所が監修する仏大手出版社から出版されている「成人教育におけるライフストーリー」叢書の一部として、フランスで出版する計画が持ち上がり、更なる発展的な研究につながった。この展開は当初の研究計画になかったが、本補助事業による研究から派生したものであり、可能な限り本研究内で実現させたいと考えていた。 一方で、上の国際雑誌への投稿論文の作成にエネルギーを割かれ、インタヴュー調査実施時期に大幅な遅れが生じていた研究IIについては、年明けから作業の遅れを巻き返すべくインタヴュー調査を計画していたが、あいにく1月下旬頃より伝播し出した新型コロナ・ウィルスの拡大により、インタヴュー調査の実施場所としていた勤務校でも、極力対面による場面設定を遠慮するよう要請が出された。本務においても相次いで心理実践実習を年度途中で打ち切る等の措置を取っていた情勢に、計画していたインタヴュー調査もやむなく延期せざるを得なかった。 これら2つの事情により、本来の最終年度であった2019年度内には、研究を完了するという枠組みに収まらなくなったので、事業期間延長申請を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度として、研究IIのインタヴュー調査及び分析を年度内に完了して、ベテラン教諭にインタヴューした経験がインタヴュアー各人の個人的経験と如何に相互作用し合い自己形成的に溶け合っているか、そして、それは如何なる形で各人のライフストーリーとして語られてくるのかについて、暫定的にでも総括を試みたい。 現時点に至っても一向に収束する時期を見通すことのできない新型コロナ・ウィルスの感染状況を鑑みるに、対面によるインタヴュー調査という面接形態に拘ることは、研究自体の完了不全を招来することに終わる懼れを禁じ得ない。このシナリオを避けるためには、対面に代わってオンライン面接を実施する方策を模索すべきだと考える。研究を継続する条件として最重要なのは、インタビュアーとの相互作用を受け止められるような、静かで落ち着いた場所・環境を確保することである。しかも、現場の中堅教員であるインタビュイーは、研究代表者の勤務校に設定したインタヴュー調査実施場所に出向くことが、たとえ勤務外の休日であっても現実には難しい諸事情がある。この構造的な課題に対して、オンライン面接であれば、根本的な解決にならなくとも、大分インタビュイーの調査協力のハードルを緩和するはずである。 ここで、この代替措置を取るに当たっては、インタビュイーとなってくれる研究協力員に対して、通信に関わる機器の貸与など、出来る限りの支援を提供しなければならない、と考える。全国的なオンライン通信機器の供給が需要に見合ってこないと整備を進めることは難しいが、支援をそれ程受けなくても面接可能な調査協力者から順次インタヴュー調査を実施していくことにしたい。 なお、仏出版社ライフストーリー叢書の出版計画については、フランス国内が新型コロナ・ウィルス対策で日常が麻痺している模様から、様子見しながら検討していくことにしたい。
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Causes of Carryover |
2018年度の研究成果から派生した展開から国際的研究へと研究の比重がシフトすることになった。この影響で、研究IIを年度当初から本格化して完了するという予定が大幅に遅れることになった。年明けから遅れを巻き返すべくインタヴュー調査を計画していたが、あいにく新型コロナ・ウィルスの拡大により、対面イベント自粛ムードが急速に進み、勤務校においても心理臨床実践など対面による場面設定を遠慮するよう要請が出された情勢に、計画していたインタヴュー調査も延期せざるを得なかった。これによって、研究協力者にインタヴュー調査の謝金を年度内に支払う予定も繰り延べる必要性が生じた。しかし2020年度は最終年度となることから、研究IIを中心に研究を進めることにしており、2019年度には実施できなかったインタヴュー調査を遂行して、次年度へ繰り越すことになった分も執行する予定である。 但し、感染の収束時期が見通せないことから、オンライン面接による代替策等の工夫を考える必要があるだけでなく、仏出版社ライフストーリー叢書の出版計画についても、フランス国内で文化的活動が麻痺している模様から、様子見しながら検討していくことにしたい。これに伴い、研究発表の為のHP制作費については、予算が許せば新設することにしたい。 これらを総合的に勘案して最終年度の予算執行を決定することにするが、妥当な使用計画になるよう配慮するつもりである。
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