2016 Fiscal Year Research-status Report
子どもの性暴力の被害-加害に対するグッドライフアプローチを用いた心理・教育的介入
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15K04124
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
野坂 祐子 大阪大学, 人間科学研究科, 准教授 (20379324)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 性暴力 / グッドライフモデル / トラウマ / 思春期 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究では、主に以下の3つの課題について取り組んだ。 1.性問題行動を示す子どもへのグッドライフアプローチに基づく支援に関する症例研究:高等支援学校を対象にグッドライフモデルに基づく生徒理解と対応に関する研修を行い、定期的な事例検討を実施した。昨年度の研究の結果から、学校のニーズとしてセクシュアルマイノリティの生徒の理解や対応に関する情報不足が挙げられたことから、性同一性障害(GID)の若者をインフォーマントとしたヒアリングを実施した。性加害のある男子生徒と性的な脆弱性の高い女子生徒を対象にした事例検討を行い、アセスメントと支援の成果について、現在、論文を執筆中である。 2.児童自立支援施設入所の女子児童を対象としたグループワークの実践と効果に関する研究:虐待や性暴力等の性被害を背景とする非行少年(計29名)を対象としたグループワー(6回、のべ18回)を実施し、トラウマに焦点をあてた心理教育及び対処スキルの学習を行った。効果評価からソーシャルスキルと自他への信頼感に関する尺度得点が有意に高まり、一定の効果が示された。プログラムの内容と結果は協力機関向けの報告書にまとめたほか、現在、論文を執筆中である。 3.施設内の子ども間性暴力に対する介入と心理教育リーフレット(2種類)の開発:初年度に構築したネットワーキングを活用し、施設でのグッドライフアプローチの適用を検討し、結果の一部を学会関連雑誌に投稿した(印刷中)。また、上記1から3の取り組みをふまえ、グッドライフモデルの考え方を含めた児童相談所及び施設職員向けのリーフレット『安心・安全なくらしのために ~施設内での性問題行動の理解と支援~』と、性被害や性加害のある子ども向けのワークシート『やってみよう! ストレスチェック ~こころとからだの安心・安全のために~』を作成し、ホームページ上でダウンロードできるよう公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
児童自立支援施設と児童養護施設、及び高等支援学校をフィールドとした調査については、ほぼ予定通りに進められており、取り組みの成果を示す報告書と2種類のマテリアル(心理教育用の職員向け及び子ども向け教材)を開発することができた。 調査内容については一部修正しており、介入の手法として予定していたトラウマフォーカスト・認知行動療法(TF-CBT)の実施と評価については行えず、グッドライフアプローチによる検討を中心に行うことになった。TF-CBTの適用事例が調査期間内に得られなかったことが主な理由であるが、現場等のニーズ調査から、TF-CBTなどの専門技法に基づく介入に至るまでの支援の必要性が把握されたため、より現場のニーズに即した介入の検討を行うことも有用と考えられた。よって、来年度は現場のニーズと対象事例の状況を考慮して、研究内容の調整を行う予定である。 また、冬に予定していた北欧へのフィールドワーク調査については、現地の天候や訪問機関の都合もあり、来年度(8月)に日程を変更することになった。内容は当初の予定通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度につき、いずれの課題も論文等での成果の公表に重点をおいて取り組むものとする。各課題の具体的な研究計画は下記の通りである。 1.性問題行動を示す子どもへのグッドライフアプローチに基づく支援モデルの構築:高等支援学校を対象とした調査を継続し、今年度は家庭内での性的虐待を受けた生徒のアセスメントと支援について検討する。これまでに取り組んできた性問題行動のある子どもの症例研究をふまえ、性的な行動化の背景にあるトラウマ体験とグッドライフニーズについて、教職員が観察や聞き取りで把握できる項目を抽出する。 2.児童自立支援施設におけるトラウマインフォームドケア/システムの検討:児童自立支援施設において虐待などのトラウマ体験を有する児童への効果的な職員の対応や施設環境を検討するために、非行少年(計30名)を対象としたグループワークを継続し、評価を行うのに加え、他府県の児童自立支援施設を研究対象とし、施設職員のトラウマインフォームドケアに向けたニーズや課題を調査し、改善の具体的な方策を検討し、提言する。 3.トラウマインフォームドケアの国内外の実践や海外の取り組みの視察:教育や臨床場面でのグッドライフアプローチの適用についての情報を収集するために、性の健康に関する国際学会と専門機関等での情報収集を行い、日本の今後の課題と方向性についてまとめる。いずれも、すでに申込み及びコンタクトはとれており、実施の準備は整っている。
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Causes of Carryover |
予定していた北欧でのフィールド調査の日程が訪問先の機関等の都合により翌年度に延期となったことにより、渡航費及び宿泊費等が繰り越された。また、国内での施設調査も調査対象機関の事情により延期されたため、それらにかかる費用が不使用であった。いずれも次年度での実施についてすでに先方との交渉済みであり、調査実施が可能な状態である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予定していた北米でのフィールド調査を2017年8月に10日間程度で行う予定であり、その際の渡航費、宿泊費、また資料収集のために予算を用いる予定である。また、国内の施設調査にかかる費用も、翌年度に使用予定である。
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Research Products
(9 results)