2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K04138
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
堀毛 裕子 東北学院大学, 教養学部, 教授 (90209297)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ポジティブ心理学 / 心理学的支援 / 心理学的介入 / 人間の持つ強み / ポジティブ臨床心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
いわゆる心理学的支援は、おもに臨床心理学の領域において研究や実践が行われてきた。しかしながら、たとえばMaddux(2009)は「illness ideology」という表現を用いて、適応に対する不適応や健康に対する病気のような二分法が促進されてきた状況を批判し、援助を必要とする人を受動的な犠牲者と見なすのではなく、個人の強さを尊重した介入を行うことの重要性を説いている。研究者自身もまた、これまでの乳がん患者の支援や東日本大震災の経験などから、「専門家である支援者対支援を受けるべき弱い患者・被災者」という構図に陥らないよう留意すべきことを痛感した。本研究は、このような問題意識を背景とし、21世紀の心理学における新しい視点として注目を集めているポジティブ心理学の人間の持つ強み(strength)や健康さに焦点を当てた研究知見に基づきながら、支援を受ける側のポジティブな力や強みを生かしたポジティブ臨床心理学とでもいうべき介入のあり方について、実証的な検討を踏まえつつ提言を行うことを目指すものである。本研究の着想はまた、平成23~26年度科研費による介入研究の成果に基づくものであり、それらの知見の上にいっそうの展開を行うことを目指した。2017(平成29)年度には、文献渉猟や国内外の学会への参加を通して情報収集を行いつつ、概念整理と介入方法の理論的検討を継続した。その中で、ポジティブ介入を紹介するコラムをまとめ、また他のプロジェクト研究ではあるが関連するテーマで行われた調査において、たとえば通常は心身の健康に重要とされる自尊心の高さは、さまざまな逆境を経験した人々からは、いずれの逆境の場合でもその回復に有用だったとは評価されず、またポジティブな特性である感謝や人間愛などが立ち直りにどの程度有用であるかは、逆境の種類によって異なることなど、興味深い知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、困難を抱えた人々に対して、従来のようないわゆる専門家による一方的な心理学的支援ではなく、人間の持つ強みや健康さに焦点を当てたポジティブ心理学の研究知見を基に、個人のポジティブな力を生かした心理学的支援のあり方を考えようとするものである。支援者側が対象者を弱者と見なして専門性を押し付ける危険性などについては、災害時のアウトリーチなどをきっかけとして指摘されるようになってきており(たとえば明石, 2012;小俣, 2012)、困難な状況にあるとはいえむしろその強みや健康さに着目しようとする本アプローチは、個人の尊厳を重視する立場に立つともいえよう。前項でも紹介した通り、関連するテーマで行われた他のプロジェクト研究におけるさまざまな逆境の経験に関する大規模なweb調査で、そこからの立ち直りにどのような資源が有用であったかという分析結果からは、本研究課題にとっても重要な示唆が得られている。 本研究課題については、これらの知見および文献や学会等からの情報収集を基にして理論的検討を進めているとはいえ、2017(平成29)年度に予定していた介入方法の具体的な展開に関するパイロットスタディまでには至らなかった。前年度同様、本務校における新たな部門の責任者という役割により研究のエフォートが低下せざるを得ない状況であったことに加えて、当初に介入を想定していた複数のフィールドにおいて、患者数およびスタッフの勤務などの病院の状況や、仮設住宅からの転出といった災害復興状況の変化など、具体的介入の機会に係る手掛かりが減少してきたことなども関連している。
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Strategy for Future Research Activity |
2018(平成30)年度は計画の最終年度となるが、幸いに前年度までの本務校における役割の任期を満了したため、残された課題に取り組むことが可能となっている。これまでの理論的検討の上に、実証的なパイロットスタディも加えながら、知見を統合してゆきたい。なお、これまでも研究協力を得てきた機関等とは依然として良好な関係にあるものの、前項に示した通り、計画当初からの時間経過に伴って介入研究の実施が難しくなってきている現状がある。他方、先にも述べた通り、関連テーマに関する調査において逆境の種類によって立ち直りの資源の有用性の違いが見いだされた点などを勘案すれば、複数の種類の異なる逆境経験を扱う必要性も考えられる。そのため、病気や災害のほかにも異なる逆境の経験者に対する介入研究の検証も有効な方法と思われ、web調査などを通じて大規模に実証的検討を行うことも検討中である。これらの成果を踏まえ、人間の強みを生かしながら行う心理学的支援のあり方について、その留意点や具体的な介入のポイントをまとめて成果を発表したいと考えている。
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Causes of Carryover |
2017(平成29)年度は、これまでと同様に国内外の文献渉猟や国際学会参加等による情報収集を通じて関連概念の整理や理論的検討を行った。また協力病院のスタッフなどとの情報交換により、心理学的支援に関わる最近の問題などについても確認を行っている。しかし進捗状況の欄にも記載したように、本務校業務等との関係によるエフォート低下や、計画当初に介入を予定していたフィールドにおける状況の変化などから、介入のパイロット研究までには至らず、結果としておもに謝金等として予定していた分の使用において残額が生じた。 2018(平成30)年度においては、今後の推進方策にも述べた通り、これまでの理論的検討に基づいて、実証的なパイロットスタディも行いながら、知見を統合する。関連研究の知見を踏まえれば、人々が直面する困難な状況の多様性なども勘案する必要性が考えられ、予定していたフィールドではなくwebなどを通じた実証的検討を行うことも検討している。そのため、支出が必要となる経費としては、研究の進展が著しいポジティブ領域の国際学会への参加旅費等のほか、web調査を含む介入研究実施のための費用、成果発表に係る費用などを予定している。
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