2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K04147
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Research Institution | Japan Women's College of Physical Education |
Principal Investigator |
酒井 久実代 日本女子体育大学, 体育学部, 教授 (00308090)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | フォーカシング / 筆記効果 / 精神的健康 / フェルトセンス / 体験過程尊重尺度 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1の研究目的はフォーカシング・プロセスに基づく筆記(フェルトセンスの筆記)を行う傾向を測定する尺度を作成することであったが、大学生を対象にした調査で日常生活での筆記の頻度は低いことが分かったため、筆記だけに絞らず、フェルトセンスの象徴化を行う傾向を測定する尺度を作成することを目的とした。酒井・天羽(2011)を基に新たな項目を加えた尺度を356名の大学生に実施し、内的信頼性の高い(α=.91)尺度を作成することができた。体験過程尊重尺度(FMS)との間に有意な正の相関、人に気持ちを話す頻度とも有意な関連が見られ、尺度の妥当性を支持する結果が得られた。フェルトセンスの象徴化の測定は中谷・杉江(2014)が行っているが、フェルトセンスの質的変化(フェルトシフト)が反映された項目ではない点で不十分であった。本研究はフェルトシフトを反映した項目による信頼性・妥当性のある尺度を作成することができた点で研究上の意義がある。 第2の研究目的はフェルトセンスの象徴化傾向と精神的健康度との関連を調べることであった。大学生326名にGHQ28、心のゆとり感尺度、Ego-Resiliency尺度を実施したところ、フェルトセンスの象徴化高群は低群よりも「心の充実・開放性」「対他的ゆとり」「対他的ER」が有意に高く、神経症傾向に差は見られなかった。本研究によりフェルトセンスの象徴化と精神的健康との関連性を明確化できた点で研究上の意義がある。 第3の研究目的はフェルトセンスの筆記課題を用いた実験を行い、精神的健康に与える効果を検討することであった。予備実験として、大学生12名にフェルトセンスの筆記課題を10週間実施し、課題前後に幸福感、心のゆとり感、心理的ストレス反応を測定したところ、「怒り」「疲労」が有意に低下した。本実験につながる結果を得ることができた点に意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日常生活でフェルトセンスを象徴化する傾向を測定する尺度の作成に関しては、研究目的通りにおおむね順調に進めることができた。研究代表者および連携研究者・共同研究者の在籍する大学で調査を実施することができ、十分なデータを得ることができたため、信頼性・妥当性のある尺度を作成することができたと思われる。 フェルトセンスの象徴化傾向と精神的健康との関連性の検討についても、研究目的通りにおおむね順調に進めることができた。これも研究代表者および連携研究者・共同研究者の在籍する大学で十分なデータを得ることができたため、フェルトセンスの象徴化が精神的健康のどの側面と関連するかを明確化できたと思われる。以上の研究成果は、日本心理学会第79回大会において研究代表者と連携研究者の共同研究として発表することができた。 フェルトセンスの筆記課題を用いた実験を行い、精神的健康に与える効果を検討することに関しては、研究目的に照らし、やや遅れている状況である。研究代表者の在籍する大学で、夏休み期間中に予備実験を行い、筆記課題前後で心理的ストレス反応の「怒り」「疲労」の有意な低下が見られ、精神的健康に与える効果を示唆する結果が得られた。しかしこの実験では統制群を設けなかったため、精神的健康への効果を実証するまでには至らなかった。 この予備実験の結果を受け、後期に本実験を進めるべきところであったが、研究代表者の時間管理が甘く、大学での委員会業務、入試業務等に忙殺され、集中して研究を行うための時間を確保することができなかった。また、研究代表者は科研費の研究課題とは異なる実践研究の10年間の成果を論文にまとめる作業にも時間を費やしたため、本研究課題を進めるための時間を確保することができなかった。以上のことから、「やや遅れている」という評価を下さざるを得ない状況となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に実施予定だった筆記課題を用いた実験を平成28年度に実施する。本実験研究の目的はフェルトセンスの筆記が精神的健康に与える効果を検討することである。7月の初旬に「人を対象とする実験・調査等に関する倫理審査委員会」に申請し、研究の承認を得る。9月から10月にかけて精神的健康度を測定するための質問紙調査を実施し、同時に実験参加者の募集を行う。10月に質問紙調査で得られたデータの入力、統計分析を行う。 質問紙調査結果をもとに精神的健康度に偏りが見られないよう実験群の振り分けを行う。筆記課題に関する事前説明等を行い、11月に実験を実施する。実験終了直後、2週間後、1ヶ月後に精神的健康度を測定する。データの分析を12月に行い、結果をまとめる。 平成28年度に実施予定の質問紙調査研究と実験研究を実施する。質問紙調査研究の目的はフェルトセンスの象徴化傾向を含めたフォーカシング的態度と怒りの感情制御傾向との関連性を検討することである。10月の初旬に「人を対象とする実験・調査等に関する倫理審査委員会」に申請し、研究の承認を得る。12月にフォーカシング的態度と怒りの感情制御傾向を測定するために、質問紙調査を実施する。12月から1月にかけてデータの入力、統計的分析を行い、結果をまとめる。 本質問紙調査を実施する際に、怒りの感情制御に関する筆記課題の実験の参加者も募集する。本実験研究の目的はフェルトセンスの筆記が怒りの感情制御に与える効果を検討することである。怒り感情制御尺度の結果をもとに、怒り感情制御傾向に偏りがないように実験群の振り分けを行う。筆記課題に関する事前説明等を行い、2月に実験を実施する。実験終了直後、2週間後、1ヶ月後に怒り感情制御傾向を測定する。データの分析を3月に行い結果をまとめる。 質問紙調査のデータ入力は業者に依頼する。分析結果の論文化は平成29年度に行う。
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Causes of Carryover |
平成27年度に実施予定だった筆記課題を用いた実験を実施しなかったため、実験参加者への謝金として予定していた150,000円を繰り越すことになった。そのため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度に実施予定だった筆記課題を用いた実験を平成28年度に実施する。その際に実験参加者への謝金として、150,000円を支出する計画である。
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Research Products
(5 results)