2016 Fiscal Year Research-status Report
トラウマ体験者の不条理感と、それを人生の中に組織するプロセスに関する研究
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15K04166
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
富樫 公一 甲南大学, 文学部, 教授 (90441568)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トラウマ / 精神分析 / 倫理的転回 / 災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
【具体的内容】 平成28年9月に海外共同研究者のDoris Brothers博士とともに、兵庫県内において「阪神・淡路大震災」のサバイバー10名を対象として、インタビューを行った。インタビューは日本語及び(研究代表者に通訳により)英語で行われ、その内容は逐語録とされた。逐語録は精神分析的解釈学によって質的に分析された。トラウマの不条理体験に関する研究は、精神分析における「倫理的転回」の流れに位置づけられる。その最新の知見を得るために、平成28年10月にボストンで行われた国際自己心理学会に参加し聴講及び発表を行った。インタビュー結果の一部は、海外共同研究者が平成29年10月にボストンで行われるPsychology & the Otherという学会において発表するため申請した。 【意義】 協力に応じてくれた日本人サバイバーの結果は、先の研究で行った「世界貿易センター爆破事件」の米国人サバイバーのそれと共通する部分とともに、その体験の質において異なる部分もあった。それは、大きな宇宙や自然の流れの中で抗いようもなく体験される運命感や、大きな摂理の中で生きる存在としての覚悟性についてである。それによって、不条理体験に対する日米協力者の体験の異同が示された。文化的違いが見られたという点の意義が大きい。 【重要性】 調査結果の考察と論文執筆は今後海外共同研究者ととともに進めていくが、今回の結果は、不条理感、諦め、覚悟性、運命感などに関して、日本人のトラウマサバイバーの主観的体験の特異性を描きだした。その特性をモデル化することで、欧米の理論の輸入が中心となっている精神分析領域において、外傷体験に関する臨床への応用可能なアジア的知見を発信することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は研究目的ごとに、以下の3つの段階で研究を行っていくことを計画していた。
【研究1】「世界貿易センター爆破事件」のサバイバーに関する研究発表を国際学会等で行い、米国人の不条理体験の質と、それを人生の中に組み込むプロセスの仮説を検証する。【研究2】「阪神・淡路大震災」と「東日本大震災」のサバイバーで、任意の研究協力者合計20-30名に個別に半構造化面接によるインタビューを行い、精神分析的解釈学による質的内容分析(Konig, 2004)を通して、不条理体験の質とそれを人生の中に組み込むプロセスの仮説を生成する。【研究3】国内外でワークショップ等の機会を得て研究1と2の結果を発表することを通して、日米の不条理体験とそれを人生に組み込むプロセスについての異同を検証し、それを明らかにする。
平成28年度は、研究2について、阪神・淡路大震災に関するインタビューを行い、そのデータをもとに、精神分析的解釈学による質的内容分析を行うことを予定していたが、予定通りに進められた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は研究目的ごとに、以下の3つの段階で研究を行っていくことを計画していた。
【研究1】「世界貿易センター爆破事件」のサバイバーに関する研究発表を国際学会等で行い、米国人の不条理体験の質と、それを人生の中に組み込むプロセスの仮説を検証する。【研究2】「阪神・淡路大震災」と「東日本大震災」のサバイバーで、任意の研究協力者合計20-30名に個別に半構造化面接によるインタビューを行い、精神分析的解釈学による質的内容分析(Konig, 2004)を通して、不条理体験の質とそれを人生の中に組み込むプロセスの仮説を生成する。【研究3】国内外でワークショップ等の機会を得て研究1と2の結果を発表することを通して、日米の不条理体験とそれを人生に組み込むプロセスについての異同を検証し、それを明らかにする。
平成29年度は、研究2の後半を以下のように進めていく予定である。【平成29年8月まで】研究2のうち、東日本大震災のサバイバーから任意の研究協力者10-15名を募る。【平成29年11月まで】東日本大震災に関する研究協力者に対して、研究計画の説明、同意書の取り交わしなどを行う。国際自己心理学会、日本精神分析学会に参加し関連する知見を得る。【平成30年12月から】研究協力者に対して半構造化面接による個別インタビューを開始する
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Causes of Carryover |
海外共同研究者の来日にかかる航空券相当額及び宿泊費など、謝金等からの支出が予定よりも多くなったため、物品費を削ってそれにあてた。その結果、差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残額12,894円分は、論文年間購読料21,366円分の一部としてすでに予算執行申請済み。
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