2018 Fiscal Year Research-status Report
トラウマ体験者の不条理感と、それを人生の中に組織するプロセスに関する研究
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15K04166
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
富樫 公一 甲南大学, 文学部, 教授 (90441568)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | トラウマ / 精神分析 / 倫理的転回 / 脱植民地主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
【具体的内容】①2015年に行った「世界貿易センター爆破事件」のサバイバーへのインタビュー結果と2016年に行った「阪神・淡路大震災」のサバイバーへのインタビュー結果をまとめ、精神分析的な考察を行った論文をPsychology & the Other学会が発刊する機関書籍に投稿し、アクセプトされた。②2017年度中に同意を得ることができた東日本大震災のサバイバーの研究協力者10名に対し、インタビュー調査を行った。③②の結果を精神分析的に考察したものを、2019年に行われるPsychology & the Other学会(ボストン)と、国際自己心理学会(バンクーバー)のオリジナル演題として投稿しアクセプトされた。
【意義】①不条理体験に対する日米協力者の倫理的体験の異同に関する私たちの考えは、この書籍に掲載されることで、現在米国で一つの大きな流れを作っている「倫理的転回」の脱植民地主義的視点の一つとして明確に位置付けられた。②福島第一原発事故がもたらした地域住民の避難や移住は「原子力発電所事故」にまつわる不条理体験だけでなく、人類の根源的苦悩の一つとしての移民や亡命、避難民体験について明らかにすることができた。③避難民としてのトラウマ研究について最初の考察を国際的な学会で発表することで、このテーマに関する学際的な研究ネットワークを構築することが期待される。
【重要性】①この研究内容の重要性は、本研究成果だけでなく、不条理体験の文化差はそれぞれの地域や国の文化や歴史の文脈に中にあることがより明確になったことである。②避難民としてのトラウマ研究は、精神分析や歴史学、哲学、倫理学における今後の大きなテーマの一つなりえると思われる。③海外の研究者に私たちが新たに提案する視点を周知することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度にやや遅れていた研究は、2018年度内に予定通り福島県でインタビュー調査を完遂することができたので、当初の予定通りの進捗度合いとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は研究目的ごとに、以下の3つの段階で研究を行っていくことを計画していた。 【研究1】「世界貿易センター爆破事件」のサバイバーに関する研究発表を国際学会等で行い、米国人の不条理体験の質と、それを人生の中に組み込むプロセスの仮説を検証する。【研究2】「阪神・淡路大震災」と「東日本大震災」のサバイバーで、任意の研究協力者合計20-30名に個別に半構造化面接によるインタビューを行い、精神分析的解釈学による質的内容分析(Konig, 2004)を通して、不条理体験の質とそれを人生の中に組み込むプロセスの仮説を生成する。【研究3】国内外でワークショップ等の機会を得て研究1と2の結果を発表することを通して、日米の不条理体験とそれを人生に組み込むプロセスについての異同を検証し、それを明らかにする。
2019年度は、研究3として、これまでの研究成果をPsychology & the Other学会(ボストン)と国際自己心理学会(バンクーバー)で10月に発表する。また、研究1についての2015年の発表論文と、研究2で得られた知見を組み込んでまとめた論文を収録した報告者の編著書籍を岩崎学術出版社から出版する。
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