2016 Fiscal Year Research-status Report
失行患者は何ができて何ができないのか?―損傷機能についての運動計算論的アプローチ
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15K04195
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
福澤 一吉 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00156762)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
板口 典弘 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 訪問研究員 (50706637)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 運動学習 / 書字 / 脳損傷 / 失書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,脳損傷患者および健常者の書字運動を解析し,定量的な比較を行うことを目的とした。また,それらの実験データに基づいて,躍度最小モデルに基づいた経由点を算出することを目的とした。実験では,5日間の新規な文字に対する書字運動学習を,トレードオフの観点から検討した。実験には,WACOMタブレットを用い,そのペン先の動きを計測した。運動学習の指標として,ペン先の軌道とお手本軌道との誤差,起動のばらつき,接線方向の速度における局所最小点の数を算出した。さらに,学習をしない条件における成績を基にして,トレードオフの観点から新たな指標を作成した。実験条件として,できるだけ早く正確に運動を目指して学習を進める群と,毎回同じ運動時間のもと,できるだけ正確に運動をおこなう群を用意し,その学習効率を比較した。 実験の結果,2つの学習条件間で,異なる学習のプロセスがみられた。共通点としては,局所最小点の3次元的位置は学習に従ってある場所へ収束していく傾向が見られたことである。軌道のばらつきや正確さは,運動時間を決めている条件のみで低下し,できるだけ早く運動をおこなう条件では,低下が見られなかった。運動を早くおこなう条件では,運動時間が短くなり,その結果,局所最低点の数も減少した。これは,運動がなめらかになっていったことを意味する。 このような研究は,訓練を繰り返していれば,速さも正確さも付いてくる,という考え方は間違いであることを示している。この知見は,脳損傷患者におけるリハビリテーションを効率的に進めるために大きな意味を持つ。すなわち,運動を速くおこなう訓練をおこなうことでは,正確さは身につかない。そのため,正確さが要求されるタスクにおいては,同じ速度で運動をおこなう訓練を繰り返すべきであることが示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在は,高齢者を対象として,失行症得点と基礎的な運動の特性の相関を調べる研究を重点的に進めている。脳損傷患者の参加者を多く取れる見込みが現状ではないため,少数例報告に切り替えて発表をおこなっていく。このような対策は,当初の研究計画に含まれているため,研究実施にかんする遅れや問題はない。
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Strategy for Future Research Activity |
躍度最小モデルに基づく経由点推定プログラムを完成させた。このプログラムを用いて,研究中のデータの再解析をおこなう。また,本年度において運動学習における拘束条件が果たす役割について,十分な知見が得られたため,これを基に脳損傷患者および高齢者に対する検討を進めていく。脳損傷患者に対する研究は少数例報告としてまとめる。健常高齢者を対象とした研究は,まとまったサンプル数が得られる見込みがたったため,少数例報告ではなく,統計的な解析に基づいた集団報告とする。
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Causes of Carryover |
実験の被験者謝礼,および論文の英語校閲に関する予算について,年度末の決算に間に合わないものがあったため,繰越が生じた。これらはどちらも,研究遂行には影響がない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
予定通り,被験者謝礼および論文の英語校閲に使用する。
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Research Products
(6 results)