2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K04201
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
中島 定彦 関西学院大学, 文学部, 教授 (40299045)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 悪心 / パイカ行動 / 走行 / 水泳 / カオリン / 味覚嫌悪学習 / 条件づけ / ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
(a)回転カゴでの自由走行によって生じるラットのパイカ行動(カオリンペレットの摂食)について、自由走行の時間を1日当たり20分・40分・60分の3条件で比較した。具体的には、上昇系列群(20分→40分→60分)と、下降系列群(60分→40分→20分)を用いた。その結果、前者では走行時間とパイカ行動に正の関係が顕著に見られたが、後者ではその傾向は顕著でなかった。 (b)モータつきの回転カゴでの強制走行や水槽での水泳によってもパイカ行動がみられるか確かめた。強制走行実験では、1日60分の強制走行を、モータ速度を低速・中速・高速の3条件に設定し、上昇系列群(低速→中速→高速)と下降系列群(高速→中速→低速)で検討した。両群とも走行速度とパイカ行動に顕著な正の関係が見られた。また、40分間の水泳を1回行えばパイカ行動が出現することも確認した。 (c)催吐剤である塩化リチウム注射によってラットにパイカ行動が生じることが知られているが、環境文脈が引き起こす嫌悪もパイカ行動を生むか検討した。まず特定のケージで塩化リチウムを注射して、当該ケージへの嫌悪を古典的条件づけ手続きで形成した。その後、当該ケージに単にさらすだけでパイカ行動が出現するか観察したが、パイカ行動は見られなかった。形成した嫌悪が弱かったか、嫌悪がパイカ行動を喚起する悪心とは質的に異なっていることが考えられる。 (d) 塩化リチウムを与えられた他個体と過ごすと、事前に摂取していた味覚溶液への嫌悪が生じるという中毒パートナー効果がある。この実験パラダイムでのパイカ行動による悪心の共感の可視化を試みたが、パイカ行動は確認できなかった。この原因として、中毒パートナーによって嫌悪そのものが生じなかった可能性と、中毒パートナー効果により生じた嫌悪がパイカ行動を喚起する悪心とは質的に異なっている可能性の2つが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画書に記した平成27年度研究計画のすべて(研究実績の概要欄の(a)~(d))を予定通り実施することができた。仮説通りではなかった実験結果もあったが、総じて予想通りあるいはそれを上回る成果を得た。さらに、実験が順調に進んだため、予定していなかった実験を2つ行うことが可能になり、研究結果の信頼性と研究計画全体の妥当性を高めることができた。この2つの実験については以下に記す。
(e)自由走行と強制走行との比較実験を実施し、自由走行の方がパイカ行動が顕著である(悪心の程度が大きい)ことを確認した。
(f)個体データの相関分析を行った実験により、自由走行によって生じるパイカ行動と塩化リチウム投与によって生じるパイカ行動に極めて高い正の個体内相関がある(自由走行でカオリンを多く摂取する個体は塩化リチウム投与でもカオリンを多く摂取する)ことを確認した。これは、走行によって生じる状態と塩化リチウム投与によって生じる状態が酷似していることを意味している。つまり、悪心がパイカ行動の原因であることを保証する実験結果である。
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Strategy for Future Research Activity |
申請書に記した研究計画調書に従って今後も実験を継続するが、幸いにして所属大学からも研究助成を得て、カオリンの摂取量を自動的に計測する装置を「ラット情動状態測定システム」として平成28年度に4台購入できることになった。この装置によりカオリン摂取量の計測が容易かつ正確になる。また、カオリン摂取量の時間推移も測定できることから、研究計画書に含めなかった実験も可能になる。具体的には走行によって生じる悪心の発生・減衰の時間推移を測定できる。これによって、理論モデルの構築や生理メカニズムの推定も可能となることが期待できる。
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Causes of Carryover |
研究が予想以上に進展したため、実験作業の委託費が当初見込みよりも約35%多くなった。このため、旅費を少なくする(学会出張を他の経費で賄う・成果発表を行う学会大会を近隣開催のものに変更する)、消耗品である実験動物(ラット)の数を最低限まで切り詰めるなどの工夫を行った。これによって、約3万円の余裕が生じたので、年度末に次年度の実験のためにラットを購入しようとしたが、それには金額がわずかに足りなかった。このため、これは残額として次年度予算に組み込んで使用することにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度の残額を組み込んで、以下のような全体使用計画を立てた。まず、消耗品費として、実験用動物(ラット24匹×7実験×3千円)に504千円。国内旅費として、研究成果発表のための学会大会参加(2泊3日)に60千円。海外旅費として、研究成果発表のための学会大会参加(約1週間)に312千円。その他として、実験補助業務の外部委託(西宮市シルバー人材センター)に630千円(7回×90千円)と英文校閲料(業者)に150千円(3回×50千円 )の合計780千円。以上を見込んでいる。
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Research Products
(3 results)