2015 Fiscal Year Research-status Report
学習者の言語活動を支える教師のインターベンションの効果に関する実践的・実証的研究
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15K04217
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
大和 真希子 福井大学, 教育地域科学部, 准教授 (60555879)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松友 一雄 福井大学, 教育地域科学部, 准教授 (90324136)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 教師のインターベンション / 学習者 / 小学校での授業 / 言語活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、小学校における効果的なインターベンションの事例を集積するため、福井市A小学校、永平寺町B小学校において多数の授業観察を重ねた。ビデオカメラによる授業データの収集は順調に進んでおり、教師の言語的・非言語的介入の特徴の抽出に成功した。とくに、言語活動において論理的な発話や構文力が求められる高学年の事例分析においては、永平寺町B小学校の2名の教師の授業を集中的に分析した結果、論理的な整合性を求める質問(発言の根拠や既習事項とのつながりを意識させたり、他者の発言とのつながりを可視化させること)や、教科書に示されている登場人物の心情を想像させるために、ペープサートを用いた登場人物の関係性を想像させる介入、抽象的な概念を学習者の言葉で再構成させるために生活経験との結びつきを起点とした問いなどの効果的なインターベンションが抽出できた。 本年度は、これら効果的なインターベンションの抽出と類型化を発展させることができただけにとどまらず、学習者に与える影響についても明らかにできたことも特筆すべき成果だろう。たとえば、論理の整合性に着眼した教師の介入によって、学習者の発話を接続詞が多用される構文として成立させ、かれらが記す文章にも他者の発言が多数引用されるといった変化が見られるようになった。また、児童の生活経験に結びつけた介入は、学習者が他者の発言との比較を促し、共通性や相違点を自ら表明する行動を促した。さらに、教師の非言語的介入については、これまで集積してきた小学校低学年および中学年とは異なり、学習規律に関するインターベンション(姿勢を整える、発言の姿勢をほめるなど)よりもむしろ、学習者同士が相互の発言を聴き、自身の考えを相対化するためのインターベンション(間合いをとる、立ち位置を変えるなど)が見られたことも明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記でも示したように、本研究でははじめに計画したとおり平成27年度には、複数の小学校での授業観察およびビデオカメラを用いたデータの収集に成功している。まずは効果的な教師の言語・非言語的インターベンションの特徴を抽出し、低・中・高学年によってその傾向が異なることも明らかにできつつあるので、研究目的でも明記した内容とも合致した進展をみせている。また、抽出できたインターベンションの効果を、各授業における学習課題、学習者の言語活動の質的変化や協働性の向上との関連から示すにも至っている点から、本研究の進展はおおむね順調だといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、継続的に小学校における授業観察・データ収集を行い、教師のインターベンションの類型化をさらに精緻化する。また、インターベンションの傾向が教師の経験年数、専門教科、性別などの個人的属性、その教師のコミュニケーションの特徴や学力に関する知識、教科の専門的理解、発問・指示・説明などの基本的なコミュニケーションに関する知識、授業観・子ども観といった認識レベルの要素によって、どのように異なるのかを明らかにしていかなければならない。さらには、授業中の学習者を見とる観点(授業において学習者の何をいつ把握しているのか)も明らかにする必要がある。これらの目標を達成するために平成28年度は、授業観察・データ収集と並行し、研究対象となる教師個々人へのインタビューを重点的に実施する。
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Causes of Carryover |
本研究はおおむね順調に進んでいるが、当初の計画よりも遠方の大学や研究機関に出向く機会が少なく、見積もった旅費を支出することができなかった。また、研究データの分析の観点を定めるのに時間を要したため、インタビューデータや録画した映像記録、音声データのプロトコル抽出にまでいたらなかった。そのために必要となる作業を依頼するための人件費も支出していない状況である。物品費については、ビデオカメラなどの購入に使用したが、図書の購入等がまだ少ないため、次年度に持ち越す次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は、昨年度に引き続き、複数の小中学校での授業データの集積を行いながら授業を行った教師へのインタビューを並行的に行う。そのため、授業データをより精密に記録するための小型カメラ(アクションカム)や、教室環境を記録できるタブレットを複数台購入し、教師の動きや学習掲示と連動した学習者の表情や学習成果を詳細に記録していく。また、授業での教師・学習者の発話や、授業後のインタビュー記録の文字化については大学院生や業者への委託を予定しているため、人件費・謝金を支出する予定である。さらには、旅費に関しても、研究成果の発表(日本教師教育学会・教育方法学会など)や、他大学での文献収集(東京学芸大学・北海道教育大学など)を目的に使用する。
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