2016 Fiscal Year Research-status Report
教室の言語文化的多様性を積極的に評価する対話的活動による学習環境づくり
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15K04219
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
宇都宮 裕章 静岡大学, 教育学部, 教授 (30276191)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 学習環境 / 対話 / 生態学 / 言語教育 / 言語文化的多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
全国の学校において急激に進行している多様な価値観の内在化――言語文化的多様性――の状況を積極的に活かした「協働的な学び合いの場」を創出することを目標に、当該場面への参画・調 査・還元を通して潜在する実践知を解析・発掘し、対話的活動(Dialogical Activity)による学習環境良質化の理論の妥当性、対話的手法の実効性、言語の教育的貢献機能と対話行為との関係性を検証する。この検証過程を経て、現場自らの主体的かつ容易な実践化を可能とするカリキュラムモデルを構築し、様々な教育活動に適用できる学習環境づくりの方策を提唱する。 昨今、子どもたちが集う教室等における言語の重要性は、学校種を問わず各地の教育現場で再認識され始めている。それは、論理的思考力・表現力・判断力といった個別的な力、調整力・コミュニケーション力といった対人的な力に加え、人格の発達や自律心・思いやり・責任感などの 人間性の育成、さらには、他者・社会・自然環境との関係性を鑑みた「多様性」や「つながり」を尊重できる人材の育成に言語が深く関与していることが、実証的あるいは理論的研究によって支持されてきたためである。このことは近年の政策提言にも反映されている。 以上を踏まえた本研究では、近年の多言語化・多文化化する教育現場に潜在している知見を発掘し、それを肯定的に活かす力を実践者の高度な専門性として評価する。そのための鍵概念が、「対話」である。対話の機能が言語の力の根底を成すという側面が明らかにされれば、教育における言語の重要性の裏付けとなるだけでなく、個々人の言語力の向上ひいては言語が交錯する学習環境そのものの良質化を導く契機になる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
教育現場での本格的な実証研究着手を想定し、現場に負担をかけない解析期、現場のニーズを補完する発掘期、現場を肯定的に意味付ける提唱期という3段階を基本方針にして計画の遂行を目指した。しかし、28年度の1年間は本研究代表者が学外研修に従事したため、実践現場に参画した上での調査の実施に制度的制約がかかった。そのため、実践を通しての実証過程へ完全に移行することは叶わなかったが、初年度から引き続いて実施した生態学的言語論の観点からの教科教育理論および実践成果の収集・整理、多言語・多文化状況に関する論考・学術書を中心とした文献の調査、公的な審議会資料等の解析を進めることができ、最終年度の理論構築への足がかりにすることが可能となった。 本年度の研究成果の一部は、後述する学会での口頭発表により公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画に基づいて、教育現場での実証研究に着手する。現場との高い協働関係の維持が円滑な研究遂行上の鍵になることを念頭に、解析・発掘・提唱の3点を基軸に計画を遂行していく。特に、発掘期=研究過程と同期する成果還元を目指し、協力校の授業計画を最大限に活かしつつ教材提供・教室運営を行いたい。また同時に、ことばの力の向上を図る支援を実施し、児童生徒のコミュニケーション力を伸ばす方法を提案する。さらに、多角的な評価方法の提案を企図して、学習成果物を蓄積し、学習過程重視の形成的評価を試み、児童生徒の変容性を柔軟に考慮した評価を提案する。成果還元と関連するが、研究遂行過程において、学校外には表出しにくい高度な実践知を発掘し、現場での優れた取り組みを広く周知することも、過年度の方法を踏襲する。 年度末には、前年度実施できなかった多文化共生社会対応が進んでいる地域への調査を敢行し、最終年度に向けた現場重視の対話的活動の評価基準の制定、および理論の精査を行う。
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Causes of Carryover |
本研究代表者は平成28年度の1年間、国立大学法人静岡大学教員特別研修実施規定に基づく学外研修に従事したため、実践現場に参画した上での調査の実施に制約がかかった。次年度使用額のほぼ全額を当初の研究計画上国内および海外の調査旅費に当てていたが、期間中の移動を行わなかったために余剰が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度でのインドネシア教育大学での調査において若干の規模縮小(調査期間の短縮と調査補助者の削減)で対応したので、それへの充当も含め、平成29年度以降の調査旅費を増額し、調査回数および研究補助者の増員を計画する。
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Research Products
(2 results)