2017 Fiscal Year Research-status Report
ヘーゲル哲学からみたデューイ教育思想の再評価とその可能性に関する研究
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15K04221
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松下 晴彦 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 教授 (10199789)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | デューイ / ヘーゲル / プラグマティズム / 教育思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、ヘーゲル哲学のデューイ教育思想への影響の諸相を再評価し、中期・後期のデューイ思想形成の見直しとデューイ教育理論に関するより善い理解を得るための方法を探究することにある。この課題の遂行のために、(1)19世紀の米国におけるヘーゲル研究の水準の考察(2)デューイによる講義ノートの分析(3)実験主義期と自然主義期のデューイにみられる「ヘーゲル主義的痕跡」の分析の3つの研究を並行して行うというものであった。 平成29年度の研究計画は、前年度までに入手した未公刊のデューイのセミナー、講義ノート、今年度に、南イリノイ大学のL.ヒックマン氏(デューイ研究センター長)を通じて入手したシカゴ大学、コロンビア大学時代の講義ノートを分析し、そこに実験主義期、初期の自然主義期におけるデューイによるヘーゲル哲学の継承、痕跡を確認しようというものであった。より具体的には、ヘーゲルの弁証法、概念形成における3つのモーメントである存在、非存在、生成という枠組みが、デューイの特定の諸概念、有機体と環境との相互作用、経験概念の二大原理である連続性と再構築、方法と題材を一体化して捉える特異な教材概念、社会的知性の役割と機能、民主主義の展開、共同体と個の関係ほかの諸概念の形成にいかに影響を与え、結実しているかを、デューイの講義ノート他に確認していこうという作業であった。これらの成果は、ミシガン大学からシカゴ大学時代のデューイの論理思想の形成に関する研究(日本デューイ学会紀要他)に反映されている。そこでは、ヘーゲル哲学から影響について、デューイの初期の論理思想の形成に、ヘーゲル的な円環的で弁証法的な捉え方、また論理学を二値的で形式的なものではなく、脈絡的で総合的に捉えていく姿勢として結実しているのではないかと指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の中心は、デューイ思想の初期と中期における公刊・未公刊の資料の収集と分析にあり、研究方法としては資料の所蔵機関での入手と学術雑誌などの復刻版の入手とそれらの精査である。そのため研究の進捗状況は、これらの基本文献と資料の収集に大きく依存する。本研究課題の中心的な資料である、デューイ自身の講義ノートの入手は、米国のミシガン大学、シカゴ大学、南イリノイ大学、コーネル大学の各図書館への訪問により実現されるが、これらの諸機関の財務削減の関係から、依然、多くの資料が未整理のままであり、本研究の中心となる資料の入手が困難な状況である。平成29年度は本研究計画の最終年度であったが、上記の事由から、本研究課題の仮説であり、暫定的な結論となるデューイ教育理論におけるヘーゲル哲学の痕跡を実証的に裏づけるための資料については、限定的なもの(ミシガン大学時代とシカゴ大学時代のヘーゲルの小論理学、精神現象学に関するセミナー)に基づくこととなった。このため成果発表について、やや遅れることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究期間の1年の延長申請により、平成30年度が最終年度となるが、引き続き前年度までに収集した研究資料の分析に取り組むとともに、当初予定していた資料の入手可能性についても、元デューイ研究センター長の南イリノイ大学のヒックマン氏に助言を仰ぎつつ継続を試みる。他方、本研究成果の統括として、デューイの教育理論の形成、また後期の自然主義的なプラグマティズム思想の形成に際に、いかにヘーゲル的な観点が取り入れられ、領有されていったかについて、論理学、倫理学、社会哲学、政治哲学、そして教育学の観点から総括していく。より具体的には、デューイ哲学に特有な基本的な個々の諸概念に使用と展開に、ヘーゲル的な枠組みがいかに具現化しているかを示し、併せて、このようなデューイ哲学の再解釈によって、難解であまり実用的ではないとされてきたデューイ教育学のよりよい理解の方法を示すことを目指す。また、前年度までに計画していたデューイ研究者として名高いR.バースタインによる『ジョン・デューイ』の翻訳と解説書の出版企画については引き続き公刊の可能性を探っていく予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度までに予定していた研究資料の収集に遅延が生じ(一部、この研究期間内では入手が困難であることも判明)、その分析と精査に遅れが出たため、研究の成果発表の機会を翌年度に繰り延べることとなった。 研究成果の発表として、デューイ教育理論の実験学校での実践とカリキュラムでの実行可能性の観点から国際学会(国際カリキュラム研究学会:オーストラリア、シドニーにて開催)にて研究発表を行う予定であり、その旅費の一部にあてる予定である。
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Research Products
(4 results)