2015 Fiscal Year Research-status Report
18世紀イギリス貧困児救済医療化過程にみる「産み育てる身体」の科学化に関する研究
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15K04238
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野々村 淑子 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (70301330)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 貧困児 / 医療化 / イギリス史 |
Outline of Annual Research Achievements |
8月にWestminster City Archivesに史料調査に行き、St. Martin -in - the-Field教区の教区史料の概要を把握、部分的ではあったが史料収集に努めた。研究成果は下記の通りである。 まず、18世紀の貧民救済事業の特徴である、ワークハウス設立運動の調査を進め、労働から教育へ、という従来の歴史観を再考すべく、そこでの子どもの処遇に焦点を当てた(論文①)。救貧史においては、救済の条件として厳しい労働を課し、救済への依存を厳格に排除しようとするものとされてきたワークハウスであったが、子どもたちの存在が重視さされ、生命、生活の維持にける自立=勤労というエートスを育成する労働教育が重視される。それが魂と身体の栄養を与え、秩序ある生活をさせるためのポリスとして機能せしめられていたこと、さらに新しい家族像がそこに機能していたことを解明した。 次に、医者の知見の下で、母親が育児の担い手として主体化していくプロセスを、貧困児医療救済事業の成立過程において解明すべく、ロンドンで最初に設立された無料診療所の設立と運営の初期形態と、そこで形成されていく育児をめぐる社会関係を解明した(論文②)。産婆、乳母による育児を、医学的知見による診断と診療へと変容し、その実質的な担い手として母親の名指しが、貧困層が診療所の患者として形成されていく過程において形成されていく具体を明らかとした。 ワークハウス、子ども無料診療所は共に18世紀イギリスを席捲したフィランソロピーにおけるポリスの一環である。子どもの教育、産育が、そのなかの重要領域として成立し、その後の教育の基礎を形成していたといえる。本研究は、国家、社会の人口の数、質を向上し、文明社会としての秩序の維持というポリスを支える事業展開における教育、産育の重要性と共に、教育史研究におけるこれらの事業の重要性解明の一助となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Westminster City Archivesでの、Westminster地区St. Martin -in - the-Field教区の教区史料について、おおよその整理は行った。未だ収集が不完全であり、日本、東京の関係機関での史料送付依頼を実施し、進めなければならない。 ワークハウスと医療救済という、貧困児救済事業の文脈において、貧困児の生命、生活への配慮の実相に迫る研究を行い、一定の成果を得た。しかし、「医療化」のプロセスをより詳細に解明するには、医者による診断、診療の実際と、その社会的な機能、それを支えた社会的、国家的な条件、関係性の詳細を解明する必要がある。 また、医者、慈善家たちが残した史料を多く入手済みである。その分析を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
上記、研究実績および進捗状況に記載した通り、概ね当初予定していた進捗状況である。しかし、Westminster地区St. Martin -in - the-Field教区の教区史料については、史料の形態、全体像がかなり複雑、多様にして大量のため、入手し、その具体像に迫るにはかなり入念かつ細心の配慮と、詳細な知識、膨大な時間が必要である。本史料の分析に関しては、従来の研究等の成果をさらに精査し、進めることが必要である。 医者、慈善家、政治家、政治算術家など、貧困児の事業に関わった人々の残した記録、団体の記録などはかなり多く入手しているので、分析を進めなければならない。
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Research Products
(2 results)