2016 Fiscal Year Research-status Report
18世紀イギリス貧困児救済医療化過程にみる「産み育てる身体」の科学化に関する研究
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15K04238
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野々村 淑子 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (70301330)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 貧困児 / 医療化 / イギリス史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請により27年度に研究論文として発表した18世紀のロンドンで初めて設立された子ども向けの無料診療所について、さらに調査を進め、29年6月に行われる比較家族史学会でのシンポジウムに向けた研究会(12月4日、於:京都大学)にて発表を行った。「子どもと教育」というタイトルで近代家族を前提とした教育についての歴史的再考を試みる本シンポジウムにおいて、18世紀ロンドンで無料診療所が設立された経緯とその活動を通して、科学的育児知識の構築と、養育主体としての家族像、母親像の構築との共時的推進関係の構造を、子どもの生命保護をめぐる救貧医療の実態において明らかとすることを予定している。 その発表を想定しつつ、さらに子どもに限らず大人を含めた一般向けの無料診療所に注目し、その診療の記録を分析中である。子ども向けの診療所(1769~)も訪問診療を行っていたことがわかっているが、その詳細な記録は今のところ発見されていない。それに対して、J.C.Lettsom医師によるGeneral Dispensary(1773~)は、設立者による詳細な診療記録が残されている。そこからは、訪問先の患者のネットワーク、即ち親子や親族関係などの繋がりと、それをいわば利用しながら診療関係を築き、同時に、病や死からの救済を通して貧困層の家族関係を再構築していく様子がうかがえる。 また、27年度の発表を原稿化した「「家庭的」という価値観の淵源を探り、現代の社会的養護のあるべき姿を考える」(論文①)では、イギリス史における孤児院や、無料診療所の設立経緯などを含めて、貧困児救済の歴史において浮上する「家庭的」という概念とそのポリティクスについて、論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
29年度後期からのサバティカル申請が認定されたこともあり、学内業務のシフトとともに、海外調査計画を変更した関係で、28年度は、主として27年度に収集した史料をもとに研究を進行した。 J.C.Lettsom医師によるGeneral Dispensary(1773~)の診療記録分析を進めているが、分析に時間を要し、遅れ気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
無料診療所ならびに産科などの医療救済団体の記録を引続き渉猟し、分析を進める。イギリスでの刊行資料については、九州大学内からアクセスできる18世紀英国の史料データベースでのダウンロードが可能である。ワークハウスでの医療活動については、Westminster Ciry Archive など、ロンドンでの資料調査が必須のため、29年度後期には計画したい。 現在のところ、訪問医療活動の記録から見える社会関係、家族や親族関係の在りようが見え始めたところである。 当初の研究計画ではこの時期に転換を迎えた女性の身体像の構築と、この時期の救貧における出産・育児の医療化がどのように絡まり合って展開するのかを解明する予定であった。親役割、子どもの診療に際する親についての語りやそれへのまなざしについて、より詳細な分析が必要とされる。
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Causes of Carryover |
29年度後期よりサバティカルに入ることが28年度中に承認された。それも含め、28年度は学内の改革に関わる業務負担などの関係も併せて、海外調査にいくことができなかった。 それゆえに、国内で入手可能な史料分析に留まっていたことなどもあり、計画通りの執行ができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度には、もともと海外調査は計画していなかったが、ロンドンのアーカイブでの調査を計画している。 教区単位のワークハウスの史料などは、ロンドン地区ないし、教区毎に設置されているアーカイブのみに大量に保存されており、27年度での調査ではおおよその史料体系の把握しか叶わなかった。今年度での調査では、それぞれの史料分析に時間を充てる。
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Research Products
(1 results)