2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K04249
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
熊澤 恵里子 東京農業大学, その他部局等, 教授 (90328542)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 帝国大学史 / 農科大学 / 駒場農学校 / 農学教育 / 大学史 / 農商務省 / ケンブリッジ大学 / オックスフォード大学 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、国内調査では駒場農学校から東京農林学校を経て帝国大学農科大学への変遷過程を史料により具体的に辿り、学校カリキュラム及び運営、教員組織などがどのように変化していったのかを探究することを目的として、東京大学文書館における史料収集及び解読を集中的に行い、大いに成果を得た。本調査の結果は、平成28年度教育史学会大会で発表する予定である。東大文書館での史料収集は平成28年度も継続する。文部省・農商務省関係者では陸奥宗光、前田正名、井上馨、芳川顕正等の関係史料を収集するとともに、新聞・雑誌記事の再検討を行い、農商務省所轄の東京農林学校が帝国大学農科大学として文部省管轄下に収められた背景に農商務省並びに農商務官僚の自律という極めて政治的な思惑が隠されていた点が明らかになった。農科大学成立を巡る学問的、政治的理由に関しては、平成28年度に論文を投稿予定である。 国外では、当初夏春2回の英国調査を計画していたが、夏に東大文書館における史料収集を集中的に行ったため、英国はイングランド地方に調査を限定し、春のみ現地調査を2週間実施した。レディングス大学、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ロンドンのロイヤルソサエティ、国立公文書館において総合大学への農学部設置に関する史料収集を行った。地域の農業教育が組織化されるのは1800年代半ばからで、ケンブリッジ大学では、その学問的重要性は認識していたが、遅々として進まなかった。オックスフォードでは農村経済学や植物学の講座のみで、オックスフォードシャー州立レディングス大学がその役割を果たしていた。総合大学への農学部設置を躊躇する理由は、欧州大学における学問の捉え方に起因する考えられる。この意味において、本研究では米国大学農学部、すなわち、ポリテクニークとの比較検討も今後の課題であり、平成28年度の米国調査での研究対象となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は国内調査の範囲が当初の予定よりも多く、夏期に集中して実施したため、海外調査を2月、3月に移動した。加えて、校務により、2週間の英国現地調査期間が1回しか確保できなかったため、調査範囲をイングランド地方に限定した。結果として、イングランド調査は新史料の発掘等大きな成果があり、日本国内だけでなく国際学会での成果発表に耐えうる内容となった。 したがって、全体的には、「おおむね順調に進展している」と評価できる。 なお、初年度予定していたリービッヒによる総合大学への農学部設置運動に関する独文論文の翻訳作業については、平成28年度に、ドイツ在住の日本研究者に和訳を依頼する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は初年度の成果発表として専門学会で発表すると共に、東京大学文書館の史料収集を継続、終了し、詳細目録の作成を第一の目的としたい。初年度収集した史資料については「帝国大学農科大学関係史資料」として、できるかぎり目録化し(表化)し、公表する。また、初年度から継続して翻刻作業を行い、活字化する。 海外調査では、帝国大学農科大学が「日本型」学理と実践を目指していたという仮説の下、欧州大学農学部と米国のポリテクニークについて比較的視座からその成立史とカリキュラムを検討する。その際、帝国大学に農科大学を設置する構想が森文相時代、すなわち大学令発令時にすでに検討されていたのかどうか、具体的な史料を探究する。 米国調査では、森有礼が総合大学への農学部設置についてどのような見解を持っていたのか、米国教育局へどのような報告書の作成を依頼したのかなど、帝国大学令及び帝国大学改正草案作成の元となる史資料を発掘したい。また同時に、明治政府からドイツまたは欧州駐在の日本公使、農商務省、文部省関係者への農科大学に関する問い合わせ、あるいはドイツ教育局への問い合わせの有無を探る。現地調査は、米国とドイツを中心に実施する。米国では、ワシントン国立公文書館、ハーバード大学など東海岸を訪問し、森有礼並びに文部省から米国大学事情の調査依頼に関する報告書、または関連文書の閲覧作業を行う。米国国立公文書館における調査は初めてであるため、事前の検索及び日本研究者への問い合わせにより、十分な準備を行いたい。 ドイツでは、リービッヒ的改革により総合大学に農学部を設置したライプチヒ大学、ギーセン大学、ミュンヘン大学、ブレスラウ大学、ベルリン自由大学、ハイデルベルク大学、キール大学、ホーヘンハイム大学のうち、拠点を探索し、欧州大学における学問・研究の思想を考察する。外務省関係文書の有無を外交史料館へ確認する。
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Causes of Carryover |
初年度は当初の計画では、夏春2回の英国調査を予定していたが、学部改組に伴う教職課程認定申請の業務が発生したことにより、現地調査の期間が十分に確保できなかったため、英国調査をイングランド地方に限定した。英国調査を1回に変更したことにより、「旅費」の使用が減ったため、次年度使用額が生じた。 また、初年度予定していたリービッヒによる総合大学への農学部設置運動に関する独文論文の翻訳作業について、国内では適切な翻訳者が見つからなかったため、平成28年度に延期した。これにより、初年度は「謝金」を使用しなかったため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は当初の予定である国外調査として米国、ドイツに加え、初年度の英国調査にもれた地域での現地調査研究を予定している。事前準備を十分に行い、「旅費」を有効に使用する。国内「旅費」は農商務官僚を数多く輩出している鹿児島、久留米などを訪問し、彼らの教育歴を考察するために使用する。 また、初年度予定していたリービッヒによる総合大学への農学部設置運動に関する独文論文の翻訳作業は、ドイツ在住の日本研究者に「謝金」による翻訳を依頼する予定である。
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