2015 Fiscal Year Research-status Report
パトスの知に基づく人間学の創成―啓蒙理性批判と受苦的経験に関する思想史的研究
Project/Area Number |
15K04263
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
小野 文生 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (50437175)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | パトス / 受苦 / 啓蒙批判 / ユダヤ / 水俣 / ハンセン病 / アガンベン / 人間学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年は初年度にあたるため、設定した4つの研究軸それぞれにおいて基礎文献・資料の収集と理論状況の把握に努め、またフィールドの予備調査をおこなうことで、研究全体の基盤と方向性をつくることを課題とした。 ①「啓蒙理性批判の哲学的アクチュアリティ」については『啓蒙の弁証法』『否定弁証法』の読解を進め、フランクフルト学派に焦点を絞って文献の収集・分析を進めた。②「受苦的経験をめぐるユダヤ思想」についてはショアー関連文献の調査と分析、とくに「赦しの思想」について調べた。③「カタストロフィ経験」については水俣病の思想(石牟礼道子、緒方正人、原田正純ら)の言説分析をおこなった。④「現代思想における潜勢力/形態学/弱さの思考」についてはアガンベンの「非の潜勢力」の哲学、アーレントの「現われ」の思想をとりあげ、読解と分析を進めた。 上記の関連文献・資料を収集するため、ドイツおよびイスラエルで資料調査をおこなった。また、イスラエルで開催されたマルティン・ブーバー没後50数年記念国際会議にて講演をするとともに司会を務めた。そのなかで、参加者らと本研究テーマに関して有益な意見交換をすることができた。 国内のフィールド調査として、水俣病センター相思社、および長島愛生園(神谷文庫/愛生園歴史館)にて資料調査をし、患者・元患者/支援者の受苦的経験に関する予備調査をおこなうことができた。 これらの成果の一部を、上述の国際会議、および京都ユダヤ思想学会や教育哲学会などで発表した。また、水俣病センター相思社刊の報告書『三人委員会水俣哲学塾』や『週刊読書人』紙上対談(「シリーズ戦後70年第4弾:哲学者はショアといかに向き合ったか――アウシュヴィッツ収容所解放70周年」)などにこの研究を活かすことができた。今後はこれらの実績を踏まえて、引き続き計画通り研究を進めるとともに、論文や著作などに公表していきたい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全計画の1年目にあたる本年は、国際学会への参加や海外研究調査、および国内フィールド予備調査をとおして、研究対象をめぐる研究状況を広くサーヴェイし、他の研究者と意見交換すると同時に、関連文献の収集や分析をおこなうことに力を注いだ。萌芽的な成果の一部を国際学会で公表できたことに加え、それぞれの軸において新しい知見や今後の方向性への示唆をえられたことは、次年度以降の作業の準備として有益であった。こうした下準備的な作業はさらに引き続き行う必要があるようにも感じた。とはいえ、自分の中でさまざまにアイデアの拡散と収束がくりかえされており、主観的に判断すればこれは「よい状態」である。
|
Strategy for Future Research Activity |
特別な推進方策の変更の必要性は感じていない。従来計画していた通り、着実に課題に取り組みたい。ただし、国内フィールド研究(水俣病)に関しては、熊本地震の影響が若干生じるかもしれないが、現地のフィールド先と緊密な連絡を取りながら遂行したい。
|
Causes of Carryover |
当初、外国語論文執筆および国内フィールド調査等を年度末に予定していたが、次年度へ予定を変更した。そのことにより、そのために年度末ぎりぎりまで確保していた経費が次年度に繰り越されることになった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
外国語論文執筆や国内フィールド調査等の費用に充てる。
|