2018 Fiscal Year Annual Research Report
Philosophical Anthropology based on the Knowledge of Pathos
Project/Area Number |
15K04263
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
小野 文生 同志社大学, グローバル地域文化学部, 准教授 (50437175)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | パトスの知 / 受苦 / 啓蒙批判 / 水俣病 / ハンセン病 / カタストロフィ / ユダヤ / 人間学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①啓蒙理性批判の哲学的アクチュアリティの考察、②受苦的経験をめぐるユダヤ思想の精神的遺産の考察、③カタストロフィ経験(水俣病、ハンセン病など)に関する思想的蓄積の検討、④現代思想における潜勢力、形なきものの形態学、無力さ・弱さの思考に関する分析という4つの研究軸をもっている。最終年度もこの研究軸のそれぞれにしたがって研究を進めた。①ではアドルノ、ハーバーマス、アーレントなどの思想を検討しながら官僚制、技術的合理性に対する批判的論点の特徴を明らかにした。②ではブーバー、レヴィナスらの思想的検討のほか、ショアー(ホロコースト)をめぐる記憶論の検討を進めた。③では引き続き水俣病、ハンセン病関連のフィールドワークをおこない、数々の問題や課題の所在を明らかにしつつ、啓蒙をめぐる両義的な意義や受苦的経験の表現論という観点から思索した。④ではブーバー、ジンメルなどの「形」をめぐる思想の検討、美と「形なきものの形」をめぐる思想的検討、アガンベンの「非の潜勢力」、鶴見俊輔の「もろさ」や「マチガイ主義」に基づくプラグマティズムの検討などをおこなった。 これらの成果を踏まえながら総括し、得られた知見をいくつかの思想的要素のもとで統合することを試みた。「もろさ」「無力さ」「弱さ」などパトス的契機から導かれる知の原理的省察をおこない、科学とは区別される「パテイ・マトス」(受苦を通して学ぶ)という知の系譜が有しうる固有の意義を、人間学や教育学のうちで、そして広く現代社会のなかで賦活させるという課題を提起した。そのことをとおして、「パトスの知に基づく人間学」の構想に向けた方向性を示した。それらの成果の一部を教育学、哲学、ユダヤ学など関連する国内外の学会において発表し、あるいは論文や書籍、記事として公刊した。
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