2015 Fiscal Year Research-status Report
『性教育国際指針』をふまえた東アジアにおける性教育分析と包括的性教育の実践研究
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15K04281
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
田代 美江子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (40297049)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 大輔 埼玉大学, 基盤教育研究センター, 准教授 (00468224)
艮 香織 宇都宮大学, 教育学部, 准教授 (10459224)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 包括的性教育 / 「性教育国際指針」 / 性教育実践 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的の第1は、2009年にユネスコを中心に出された『性教育国際指針』を踏まえ、多様性を前提とするジェンダー平等の視点から、中国大陸(都市部)、香港、台湾、韓国における性教育の背景、その具体的内容および教材分析を行い、日本の性教育との比較分析を行うと同時に、アジアにおける性教育の特徴を明らかにすることである。第2に、東アジアにおける性教育の特徴と課題を明らかにし、中国大陸、台湾、韓国、日本の研究者及び学校現場の教員と協力し、包括的性教育の教材および教育方法の開発、授業研究を行い、子ども・若者の現実と要求に則した性教育実践の具体的課題と展望を明らかにすることである。 平成27年度においては、第1の目的に関わり、『性教育国際指針』の翻訳作業に取り組んだ。版権も取得しており、今年度8月に発刊する予定となっている。この作業は、東アジアの性教育の特徴を分析する上で欠かせないものであり、また、包括的性教育実践をつくるにあたり、その実践の位置づけや意義を確認するうえで必須の課題であった。 また、第1の目的に関連して、これまで収集してきた性教育関係資料、特に中国の性教育関係テキスト(中学1年の生物学、流動児童にむけた性健康教育のテキスト)を翻訳し、内容分析を進めてきた。さらに、こうした成果を、性教育関連の会議等で報告してきている。 これと同時並行で進めている日本国内での中学校をフィールドとして実践研究は継続的に進めてきており、これまでの協力者の他、新たに性教育に取り組み実践研究に協力してくれる学校、教員を開拓することが出来た。 これら教員との協力関係で得られた成果は、社団法人“人間と性”教育研究協議会の夏期セミナーにおいて現場教員に還元している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東アジアの性教育分析を行うにあたり、「ガイダンス」の翻訳および内容分析に時間を費やしたが、これは、ユネスコによる包括的性教育の内容を、現場で性教育に取り組む教員に広く、また正確に広めるためには必須の作業であった。また、中学校での性教育実践研究は、当初の予定どおり順調に進めることができ、現場の協力体制もさらに広げることができたことより、本研究の目的を達成する一過程として十分な意義を持つ取り組みとなった。 さらに、本研究計画の中でも重要な位置をしめる28年度8月に開催される第6回アジア性教育会議(台湾高雄・樹徳技術大学)に向けての準備に当初から、準備委員のメンバーとして参加し、これまで参加がほとんどなかった韓国の研究者との橋渡しを行うことができた。その際、韓国で健康教育を担っている保健教師と保健教師の教育にたずさわっている保健教育フォーラムのメンバーを日本で迎え、研修等に協力するなどの交流を図ることもした。 東アジアの性教育分析についての成果は、少しずつ論文等で発表しているが、さらなる調査研究が必要であり、さらに、各国との研究者との協力関係を踏まえて成果を積み上げていきたいと考えている。 加えて、28年度5月にスウェーデンで開催されるGender and Education Associaton Conferenceにおいて、そのプレワークショップで報告する機会を得ることができ、今年度からその準備も進めてきている。 以上の点から、当初の計画と完全に合致してはいないが、最終的な目的に向かっておおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画および今年度の進捗状況を踏まえ、以下の課題に取り組み成果を積み上げたいと考えている。 第1に、これまで積み重ねてきた成果を、6月スウェーデンで開催されるGender and Education Association Conference 2016のプレワークショップにおいて、また8月に台湾で開催される第6回アジア性教育会議で報告する。特に、台湾での学会参加においては、台湾の性教育推進に大きく貢献している台湾性教育学会、杏陵医学基金会のメンバー、また、セクシュアリティ研究を先導する樹徳大学の研究者(今回の会議の実行委員長)との交流を図り、これまでの台湾調査を補完し、さらに今後のさらなる調査を進めるための基盤を整えたいと考えている。また、本会議では、台湾の研究者のみならず、韓国、中国大陸の研究者、特に中国北京師範大学の性教育研究チームとの今後の調査研究について打合せを実現する予定である。 第2に、学校現場での実践研究を引き続き進めていきたい。今年度より、新たなフィールドを開拓したことから、これまでの授業づくりをさらに充実させていくとと共に、これまでの実践の記録を詳細に分析することに力を入れていきたい。この成果を積極的に現場に還元していくことは重要であり、“人間と性”教育研究協議会の夏期セミナーやその機関誌に報告をあげていくことも重要な課題である。 第3に、すでに収集している性教育関連教科のテキスト分析を行う。特に、韓国、中国、台湾のテキストの比較分析を実施し、この成果について、学会報告、論文投稿に取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
本年度使用額をおさえたいちばんの理由は、27年度に予定していた中国へのフィールと調査を、次年度以降にするという計画の変更を行ったことによる。このような計画変更の一番の根拠は、本年度に予定されている台湾でのアジア性教育会議への参加において、中国大陸の性教育研究者と交流することが可能であり、それを経てから調査に取り組むことが、本研究、調査をより充実したものにするため妥当であると考えたためである。また、本年度6月に実施するスウェーデンでの学会報告のチャンスは、当初の予定にはなかったため、これにかかる大きな経費を確保するという目的もあり、27年度の経費を抑えることにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度未使用額と合わせて約130万円の経費は、そのほとんどをスウェーデン、台湾での成果報告、および予備調査のための研究分担者、研究協力者の旅費として計上する予定である。その内訳は、スウェーデンに関する旅費ついては、一部、先方の助成を受けてはいるが、45万円(15万円×3)、台湾に着いては、研究協力者の旅費も含め72万円の経費(18万円×4人)がかかるものと予定している。その他については、今回のスウェーデン、台湾訪問の際のサポートととして、謝金として支出する予定でいる。
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