2016 Fiscal Year Research-status Report
「文字とのかかわり」に着目した幼児期の教育と小学校教育の接続期カリキュラムの開発
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15K04294
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
横山 真貴子 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (60346301)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 幼小接続期 / カリキュラム / 文字 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、幼児期の教育と小学校教育における大きな段差の1つに「言葉」があると考え「話し言葉」中心の幼児教育と「書き言葉」中心の小学校教育を滑らかにつなぐための接続期カリキュラムを、「書き言葉」すなわち「文字」とのかかわりに着目して開発することである。具体的には、①文字環境、②文字とかかわる活動、③保育者・教師の援助について、(a)3歳児から小学校1年生まで、同一の対象の発達を4年間追跡する縦断研究と、(b)国内外の幼児教育施設の5歳児及び小学校1年生クラスにおける横断研究を実施する。 平成28年度は、(a)縦断研究では、所属大学附属幼稚園4歳児クラス(27 名)を対象に、4月~3月まで計30回の観察を実施し、①保育室内の文字環境の写真撮影、②幼児が文字とかかわる行動、及び③保育者の援助のビデオ録画、担任保育者へのインタビューを行った。主な結果は、以下の通りである。①文字環境として、進級当初から子どもが園生活を送る上で必要なものが絵・マークとともに文字(ひらがな)で標示されていた。5月下旬からは、生き物の飼育にかかわって標記される文字量が増え、2学期以降はさらにその種類が増加した。②幼児の文字とかかわる活動では、文字を読む姿が文字環境の増加と共に増え、書く活動では、3学期には友達に手紙を書く姿も見られ、単語から文章を書くようになる過程が指摘された。③保育者は、子どもの生活や発達の状況を見ながら、生活を広げ、遊びを発展させる文字環境を再構成していた。 (b)横断調査では、公立こども園5歳児クラス(29名)を対象に、4月~3月まで計34回の観察を(a)同様実施した。これにより、単一の園の縦断調査の結果に基づくカリキュラムではなく、より汎用性の高い接続期カリキュラムの検討が可能となった。また、幼稚園教育要領等の改訂に際して、接続期にかかわる内容の把握に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、以下の通り、予定していた調査研究を実施することができた。 (a)縦断研究では、所属大学附属幼稚園4歳児クラス(27 名)を対象に、通年を通して計30回の観察を実施し、保育者へのインタビューも随時行った。その結果を下記の3点にまとめた。①4歳児の「文字環境」:「ものの名前」だけではなく「情報」も絵や写真とともに文字で標記され、文字の記載量が3歳児に比べて増加した。②幼児が文字とかかわる活動:文字を「読む」行為が文字環境の増加に対応して増えた。文字を「書く」行為も個人差が大きいものの増加し、自分の名前を書くことから、友達に思いを伝える手紙を文章で書く姿も見られるようになった。③保育者の援助:3歳児は、文字の存在・役割に「気づく」ことが主なねらいとされていたが、4歳児では、文字の役割を知り、遊びや生活の中で「使おうとする」ことがねらいとされ、絵本や文字標記などの文字環境や保育者の援助が行われていた。 (b)横断調査では、計画では複数園での単発の5歳児及び小学校1年生クラスの観察を予定していたが、園による文字環境の特徴について明らかにするために、平成28年度は、公立こども園5歳児クラス(29名)を対象に、4月~3月まで計34回の観察を(a)同様実施した。その結果、何を文字で標記するかに園による違いが見られ、接続期カリキュラムを作成する上で、分析の観点として必要な項目(子どもの姿、ねらい、内容、環境構成・援助、具体的な活動例)を明確化し、これらの観点から、観察結果を整理し、分析していく必要性が指摘された。さらに、新幼稚園教育要領等で示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」について、子どもの育ちと生活の流れ、及びねらい(育てたい力)を明確化すること、「カリキュラム・マネジメント」の視点も含めたカリキュラム作成が重要であることが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、平成27、28年度に得られた3歳児及び4歳児の縦断研究の結果を踏まえ、5歳児の縦断研究を実施する。また横断調査として、国内外の幼児教育施設の5歳児及び小学校1年生クラスの視察調査を実施する。 (a)縦断研究では、進級した所属大学附属幼稚園の5歳児を対象に、①文字環境、②文字とかかわる活動、③保育者の援助に着目した通年の観察を実施する。併せて、保育者へのインタビュー、保護者への質問紙調査を実施し、5歳児の園と家庭での文字とのかかわりを明らかにする。 (b)横断研究では、国内2地域及び韓国への訪問調査を実施する。国内の調査は、幼小期の接続カリキュラムを研究開発している横浜市立本郷台小学校「スタートカリキュラム公開授業・研究会」(平成29年5月12日)、及び神戸大学附属幼稚園の公開研究会への参加を予定している。研究結果は、国内の所属学会(日本保育学会:岡山5月,乳幼児教育学会:福岡11月,日本発達心理学会:仙台平成30年3月)に参加し、成果を発表していく。研究をまとめ発表し、他の研究者と意見交流を行うことで、研究の軌道修正をはかる。また学会参加により、関連領域の最新の研究動向と情報を収集する。 平成27,28年度の研究の成果、及び上記(a)(b)の調査を踏まえ、平成29年度は、5歳児の縦断研究を継続し、アプローチカリキュラムを作成する。また横断研究として、韓国への訪問調査を実施し、日本の結果と併せ、幼児期全般における「文字とのかかわり」に着目した幼児教育カリキュラムを構想する。さらに最終年度の平成30年度には、小学校1年生のクラスでの縦断研究を継続するとともにデンマーク等、欧米の接続期カリキュラムも調査し、スタートカリキュラムを完成させる。これらを踏まえ、最終的に幼児期の教育と小学校教育をつなぐ接続期カリキュラムを開発する。
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Causes of Carryover |
主要な理由は、人件費・謝金の未使用である。人件費として、主に観察の録画データの文字化を計上していたが、これを次年度に繰り越した。観察場面において、子どもの行動及び発話を丁寧に文字化するためには、予定(録画時間の3倍)していたよりも大幅に文字化に時間を要することが判明した。そのため、全データを網羅的に文字化するのではなく、分析枠を明確にし、場面を焦点づけた文字化が必要と判断した。分析枠を明確にするためには、3~5歳児の結果を踏まえ、3カ年の全体像を見据えながら決定していくことが必要であると判断した。そのため、平成28年度の分析は、筆者による活動のインデックス作成、活動概要のまとめ、分析枠の構想を実施し、平成29年度に、3~5歳児の観察結果を見ながら、焦点づけた録画データの文字化を依頼することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、1,040,000円の予算を使用する予定である。 (a)縦断研究にかかわって、下記の通り500,000円を予定している。物品費(インクトナー等)200,000円、データ文字化のための人件費300,000円。(b)横断研究では、視察調査のための旅費が主である。合計220,000円。内訳は、韓国への渡航費用が180,000円(2月、5泊6日)、国内2箇所の視察調査に40,000円(横浜1日、神戸1日)。その他、旅費として、学会参加等のための交通費260,000円(岡山50,000円:5月、3泊4日、福岡40,000円:11月、1泊2日、仙台90,000円:平成30年3月、3泊4日、東京での研究会参加費80,000円)、学会等への参加費60,000円の使用を計画している。
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