2015 Fiscal Year Research-status Report
ホームレス状態にある若年女性の生活・就労・社会的自立支援のためのシステム構築研究
Project/Area Number |
15K04311
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
野依 智子 福岡女子大学, 国際文理学部, 教授 (40467882)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 女性の貧困 / 非正規雇用 / シングル女性 / 家族賃金 / 男性稼ぎ主 / 就労支援 / 生活支援 / ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ホームレス状態にある若年女性に着目し、彼女たちの生活支援・就労支援さらに社会的自立支援のためシステム構築のために、貧困・ホームレス状態に至ったプロセスを明らかにするのだが、そのことは同時に、女性の新たな非正規問題を浮き彫りにすることにもなる。従来、女性の非正規問題は、「家族賃金」を前提とした主婦のパート問題であった。しかしながら、近年の「男性稼ぎ主」モデルの崩壊は、「男性稼ぎ主」に包摂されない若年女性の増加を意味する。にもかかわらず、女性労働は家計補助的労働で男性との賃金格差は100:67、社会保障制度は男性の被扶養家族という位置づけである。「男性稼ぎ主」モデルが崩壊した以上、現状の社会システムの再構築が必要である。本研究は、女性の非正規問題が新たな局面に立っていること、さらに社会システムの再構築の必要性をジェンダー・社会福祉・社会政策の複合的な領域にわたって示唆するものである。 第1年度は、若年女性がホームレス状態に至ったプロセスと貧困の実態を明らかにするために、以下の調査を行った。 (1)男女共同参画センター南太田(フォーラム南太田)の「ガールズ編しごと準備室講座」(11回講座)に参与観察。働きづらさ、生きづらさを抱える20代から30代の女性を対象にした就労支援・生活支援講座を参与観察し、自己肯定感を喪失した若年女性の実態を把握した。 (2)「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」を実施した。横浜・大阪・福岡の男女共同参画センターとともに、35歳以上54歳未満の非正規雇用でシングル(未婚)の女性の年収・就労形態・学歴・悩み・支援などについてのWebアンケートを実施した。(1)の講座を実施してきた中で、30代~50代の非正規雇用で働くシングル女性の生きづらさを調査する必要性に迫られ実施した。新たな女性の非正規問題に直面していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度実施した「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」は、当初の計画にはなかったが、若年女性の貧困・ホームレス状態(関係性の喪失)に至ったプロセスを明らかにするために実施した。実施に際しては、20代・30代だけでなく40代・50代の非正規シングルの働きづらさは深刻なのではないかとの予測のもと調査を行ったのだが、予想以上に40代・50代の非正規シングル女性の貧困と孤立が明らかになり、貴重な調査となった。さらに、調査結果から、現在進行している女性の非正規問題は、従来のパート主婦の非正規問題とは違い、「男性稼ぎ主」に包摂されない30代・40代・50代の非正規シングルは、貧困・孤立に直結するという新たな女性の非正規問題に直面していることを明らかにした。 調査結果としては以下の通りである。年収150万円未満28.4%、150万円~250万円未満39.8%、250万円以上31.8%。平成25年度の厚生労働省国民生活基本調査では、122万円(他の調査では143万円という)が貧困線であることから、本調査の約3分の1が貧困層に該当する。また、35歳~39歳の年齢層は、70.5%が初職から非正規であった。契約期間1年未満が45.4%。非正規職についている理由(複数回答)は、61.7%が「正社員として働ける会社がなかったから」という不本意非正規であった。 このように、本調査を実施したことにより、①当初の計画以上に女性の貧困・ホームレス状態(関係性の喪失)の実態を明らかにできた。また、20代・30代だけでなく、②30代・40代・50代非正規シングル女性の貧困を可視化することができたことで、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究計画は、以下の2点である。 (1)「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」をまとめる意味で論文執筆を行う。論文の視点は、①非正規職シングル女性の貧困・ホームレス状態のメカニズムを明らかにする。非正規職シングル女性の貧困の背景には、「男性稼ぎ主」モデルに基づいた「家族賃金」という賃金体系とそれに基づく社会保障制度がある。したがって②「家族賃金」という賃金体系は、いつから登場したのか歴史的に検討する。以上の視点で、本調査結果をまとめる。 (2)支援のしくみと連携の実態を明らかにする。非正規シングル女性の貧困とホームレス状態(関係性の喪失)は、社会から見えていないのが現状である。したがって、社会的支援のシステムが構築されていないため、本研究で、就労支援・生活支援・社会的自立支援のシステムを検討することを目的にしている。貧困女性の支援システムの先行事例として、母子世帯の支援システムを参考にしたい。大阪市は、生活保護行政、大阪婦人ホーム生活ケアセンターなど自治体の体制が整備されている。くわえて、民間の保護施設も充実しており、行政と民間の連携も進んでいる。したがって、平成28年度は、大阪市をモデルに支援のしくみと各機関の連携のしくみを調査する。民間団体としては、社会福祉法人みおつくし会を対象にする。 これら母子世帯の支援のしくみを調査して、非正規職シングル女性の生活支援・就労支援・社会的自立支援のシステム構築の参考にする。
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Causes of Carryover |
今年度、貧困・ホームレス状態(関係性の喪失)にある女性の支援システムのプレ調査として、母子世帯の支援システムの先行事例である大阪市の社会福祉法人みおつくし会にインタビューと見学に行く予定であったが、実施できなかった。大阪市は、生活保護行政、大阪婦人ホーム生活ケアセンターなど自治体の体制が整備されており、その連携機関として社会福祉法人みおつくし会の母子生活支援施設は位置づく。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、社会福祉法人みおつくし会の運営する母子生活支援施設を調査すると同時に、大阪市の生活保護行政や大阪婦人ホーム生活ケアセンターの担当者インタビューを行い、困難を抱えた女性の受け入れから自立までの支援システムや連携のしくみ、課題などを調査して、本研究のもくてきであるホームレス状態にある若年女性の就労支援・生活支援・社会的自立支援のためのシステム構築の参考とする。
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[Presentation] 高齢化と女性の貧困2016
Author(s)
野依 智子
Organizer
WWAS国際シンポジウム
Place of Presentation
福岡国際会議場
Year and Date
2016-06-04 – 2016-06-04
Int'l Joint Research
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