2015 Fiscal Year Research-status Report
教育困難高校における「学び直し」支援モデルの構築に関する研究
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15K04331
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Research Institution | Joshibi University of Art and Design Junior College |
Principal Investigator |
山田 朋子 女子美術大学短期大学部, その他部局等, 教授 (50331418)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 教育困難高校 / 学び直し / 高校改革 / 支援条件 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、教育困難高校の生徒が持つ様々な困難のなかで、特に学力保障に焦点をあて、学校教育として「学び直し」の支援条件を検討し一般化できるモデルを構築することである。 本年度は、次のように研究を実施している。最初に先行研究を収集し、これまでの研究成果を踏まえた調査項目の設定のための分析をおこなった。次に①大阪府内で「学び直し」の学校として指定され取り組む教育困難高校、②神奈川県内での教育困難高校、③京都府内での「学び直し」支援のために新設された高校、④ハワイ州での学校現場での調査を実施している。 ①では「エンパワメントスクール」に指定された3校において指定前の生徒が在籍しているなかでの1年目の状況(設置の経緯・設置形態・進路状況・カリキュラムおよび履修方法、学び直しの科目設定・短時間授業など)を調査した。②では教育困難な状況に特別な支援がなされていない学校での神奈川県の「支援教育」を踏まえた取り組みから支援の可能性を探った。③では、一般的に「学び直し」の取り組みが既設高校での改革として実践されていることに対して、新設校での取り組みを対象とした。同校は京都府で最初の「学び直し」を特色とした学校であり、今後の同様な取り組みに向けてのモデルとして設置されている。④では教育困難な生徒の学力向上と大学進学の支援のために導入されているハイスクールとコミュニティカレッジの連携プログラムについての調査を実施した。加えて、研究動向の知識を得るため、当該研究に関連した諸学会に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、大阪府立高校での「学び直し」の取り組みについて、制度導入の初年度を調査することで、上級学年と新入生の生徒を比較し、その変化を把握することができた。当該校は、エンパワメントスクールに指定される以前から、困難を抱えた生徒が多く在籍し、それらの生徒の状況に応じる取り組みを実施していた。そのことから、指定前後の比較をすることで「学び直し」の指定を受けることの意義と課題を検討し、特別な支援を受けなくとも取り組み可能な「学び直し」のあり方を考察することができた。また、第1学年を義務教育段階の学び直しの期間としたカリキュラムを設置し、2年次から高校の教科内容を履修する形態を取ることが明らかとなった。この形態は、適格者主義を前提とする高校教育の枠組みに対して、全ての者を対象とした高校教育の役割を考察する上で注目すべき事象であると考える。次に、「学び直し」の指定を受けず特別な条件整備の支援がない教育困難高校の取り組みからは、特に特別支援教育との関連から支援が実施されていることがわかった。しかし、支援対象者が肯定的に支援を受けたいと考えることが可能な環境を保障することに課題のあることが分かった。さらには、これまでの「学び直し」が既設校での実施であったことに対して、新設校での取り組み事例からは、既存の社会的評価に制限を受けないことによる可能性を考察している。 一方、ハワイ州ではハイスクールとコミュニティスクールの連携によるプログラムが実施されている。そこでは、経済的家庭的な困難を抱える生徒ができるだけ安価に大学入学の機会を得、上級学校進学への動機付けと自尊心の育成を目指した実践がなされている状況を調査することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、新たな先行研究を収集しつつ、引き続き調査対象を広げ訪問による聞き取り調査と資料収集を行う。 都道府県及び政令指定都市の教育政策を確認し、高校教育政策において「学び直し」の施策を立案し採用している教育委員会を抽出する。対象となる自治体では「学び直し」の施策が検討され、導入に至った経緯、支援のための条件整備(予算・人的配置・施設設備など)の状況などの調査を予定している。調査対象校については、まず昨年度の対象校での第二次調査を行う。特に、「学び直し」に取り組んだ後の1年生の変化の有無、「学び直し」のカリキュラムの形態と履修状況、「学び直し」から高校レベルの科目内容への接続の状況とそこから生じた課題に対する学校側の対応について調査する。また、抽出した教育委員会の中で新たな調査対象校を抽出し、「学び直し」の取り組み導入の経緯や条件整備の状況、課題を調査する予定である。加えて、「学び直し」の特別な指定を受けていないものの注目される取り組みをしている教育困難校高校を抽出し調査することで、指定校との比較から一般化できるモデルの可能性を探る。国内の学校調査により、「学び直し」を特色とする学校の特質を考察したい。 加えて、米国での調査では、昨年度に訪問した学力支援のプログラムを導入している学校を再訪問する。当該プログラムの運用状況を調査し、どのような支援をどこから得ることを可能としているのか(財的条件では教育委員会からの予算だけでなく寄付などを積極的に活用し、人的条件では無償ボランティアの活用などを行っている)などを調査する予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度(平成28年3月)に島根県の離島での学校及び地域調査の実施を計画していた。当初は直接、学校への依頼を予定していたが、注目される学校改革の展開中のため、島外からの視察依頼が多数あり、個別の対応が困難との情報を得た。そこで、個別対応での調査の機会を得るために、当該校に関わる研究者に紹介を求める必要性が生じた。当該研究者との打合せが3月下旬になったため、学校調査を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画内容を実施するに当たって、訪問校への調査及び聴き取り調査の移動に関しての旅費(宿泊費・交通費)、調査地における専門知識の教授のための費用、資料のパソコン入力や調査地での研究補助者の謝金、聞き取り調査のテープ起こし費用、資料等の複写費・運搬費・購入費等とする。
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