2016 Fiscal Year Research-status Report
ネパールにおける農村女性の社会参加をめぐる実証的研究
Project/Area Number |
15K04337
|
Research Institution | National Institute for Educational Policy Research |
Principal Investigator |
長岡 智寿子 国立教育政策研究所, 生涯学習政策研究部, フェロー (20738273)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 災害とジェンダー / 女性の社会参加 / ノンフォーマル教育 / 社会教育研究 / 生涯学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ネパールの農村女性の社会参加の様相を把握することを目的としているが、本研究がスタートした2015年4月下旬、大地震が発生し、調査地も壊滅的な被害を受けた。社会教育研究においても、その土地の状況や社会の在り方、固有の知見や伝統的な社会の仕組みを把握し、災害後の社会の復興に向けて、どのような取り組みが望ましいのか、考えていくことが欠かせない。とりわけ、災害とジェンダーの視点から分析された研究では、災害後、被害は男女の置かれた社会的付置状況において不均衡に影響を及ぼし、また、その他の要因とも複雑に重なっていくことが指摘されている。 調査地の村を中心に継続調査を行った結果、災害を経験した社会においては、女性は男性よりも被害の割合が大きく、災害後の生活においてこれまで以上に性役割分業を強いられ、労働負担が増していることが確認された。災害弱者を女性に限定してしまうことはできないが、貧困やカーストの問題が複合的に絡み合い、また、政治、経済的に周辺化される人々を創出している状況下では、結果として、女性はさらに不利益を被る状態に置かれている。今年度は、聞き取り調査により得られた証言を記録集としてまとめ、大地震における人々の記憶や経験をこれからの社会の復興に役立たせていくこととした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の調査地の一つ(ブングマティ村)は、Kathmandu盆地の中でゴルカ大地震による被害が大きかった地域である。大地震の発生から約2年が経過しようとしている現在、被災地の人々の生活環境、状態に大きな変化は見られない。劣悪な環境の下、仮設住居での暮らしが続いているということさえ、注目されずにいる。調査地における調査を継続して行った結果、以下のような事柄が明らかになった。 ①仮設住居で生活している人々の多くは、土地を所有していないため、政府から罹災証明が得られない。そのため、義援金が支給されないこと。②村落内や世帯内でも女性には情報が行き届いていないケースが多いこと。③震災以降、怪我や疾病により体調を崩した人の割合は、圧倒的に女性の方が多いこと。④大地震の発生原因を科学的根拠よりも宗教的事由として受け止めている人が多いこと。 人々の多様な経験や震災当日の記憶を記録しておくことが必要であり、個々人の記憶は地域社会の記憶としても、今後の社会の復興に役立てていくことができる。人々の経験を『Our memory and experience Gorkha Earthquake on 25th April 2015』として小冊子にまとめ、現地において配布できる体制を整えた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は本研究の最終年度となる。研究計画に従い、これまでの研究活動の成果をまとめていく。 女性の社会参加の様相を他のアジア諸国との比較においても分析を進めていきたい。
|
Causes of Carryover |
①印刷費として、前倒し請求により20万円の予算を設定していたが、大幅にコストを抑えることができたため。②計画ではバングラデシュの訪問を予定していたが、現地の治安が不安定であるため、渡航を見合わせたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度である今年度は、これまでの調査により得られた知見を広く発信、報告していくことが有効であるため、①英文による論文執筆のための費用(英文校閲等)に使用していく。②また、南アジアの女性の教育支援活動に取り組む機関の訪問調査(バングラデシュを予定している)を実施し、ネットワーク、意見交換にも取り組み、研究成果の報告に活かしていく。
|