2015 Fiscal Year Research-status Report
メキシコにおける子どもの福祉と教育に関する歴史研究
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15K04362
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
青木 利夫 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (40304365)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | メキシコ / 子ども史 / 福祉 / 保護 / 矯正 / 貧困 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、日本におけるメキシコの子ども史研究に関する研究がきわめて少ない現状を踏まえ、メキシコ国立図書館やメキシコ大学院大学などの関係機関における文献・資料の調査・収集を実施し、子どもの保護、矯正、医療など福祉に関連する文献・資料を入手した。そして、先行研究を整理し研究動向を分析した結果、メキシコにおける子ども史研究は、1990年代から徐々に増えはじめ、21世紀に入ると、メキシコの国民国家形成期である19世紀後半から20世紀前半を対象に、このテーマに関する研究が急速に増加したことがわかった。 この時代、医学や心理学、教育学など西欧から導入された「科学」を背景に、子どもにはおとなとは異なる特有の問題があり、将来を担う子どもに特別の配慮をすることがメキシコ社会の発展にとって重要であると考えられるようになった。しかし、政治家や専門家たちは、「将来の市民」である子どものなかに、浮浪、非行、病気、障がいなどさまざまな問題を抱えた子どもたちが少なからず存在していることに大いなる懸念を抱いた。「将来の市民」がなんらかの問題を抱えているということは、メキシコ社会の「退化」につながる重大な危機であると認識されるようになり、子どもの問題が国家にとって解決すべき優先課題のひとつとされたのである。 本年度は、こうした歴史的背景を踏まえつつ、貧困層の家庭に生まれた子ども、遺棄された子ども、孤児、家庭から離れて暮らす子どもなど、問題をかかえているとされた「恵まれない」子どもたちを対象とし、そのような子どもたちが国家の支配層にどのように認識され、また、子どもたちにたいしてどのような政策がとられたのか、そして、そこにはどのような問題があったのかを、19世紀から20世紀にかけての救貧院、捨て子院、病院などの子どもに関わる福祉関連制度を中心に検討した。その成果の一部は、学術論文として発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画においてもっとも重要な課題のひとつは、メキシコの子ども史に関する先行研究を整理することであったが、メキシコにおける現地調査において、日本では入手の難しい文献・資料を入手し、それをもとに、日本ではほとんど研究されていないメキシコの子ども史研究の研究動向を整理することができた。また、子どもの福祉に関する制度や政策、および子どもを収容する施設、子どもに関わる諸科学に関連する資料や文献も入手し、分析をはじめている。一次史料をはじめ未入手の資料・文献については、次年度以降の現地調査において入手が見込まれている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、先行研究の整理および分析枠組みの検討を中心におこなうことによって、本研究を遂行するうえで不可欠な一次史料の所在を探るとともに、今後の研究の方向性について一定の見通しを立てることができた。今後も引き続き、メキシコ・シティ歴史文書館やメキシコ保健省歴史文書館など、メキシコにおける関係機関での文献・資料の調査をおこない、とりわけ一次史料の入手に努力する。そして、研究計画にそくして史料の分析を進めるとともに、先行研究の整理を通じて浮かびあがってきた新たな研究課題の検討をおこなう予定である。
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Research Products
(1 results)