2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K04367
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
荒牧 草平 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (90321562)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ソーシャルネットワーク / 家族制度 / 意識形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究実施計画に基づいて、教育達成や地位達成に対する家族制度および社会関係資本や社会的ネットワークの影響を扱った理論的・実証的研究のレビューを進めるとともに、NFRJ やESSMなど、教育達成や地位達成に対する拡大家族の影響を検討可能な全国規模の社会調査データを用いた分析を行った。 後者について具体的には、「ソーシャルネットワーク」や「ソーシャルキャピタル」および「家族制度」の各概念を導入して、教育達成に対する拡大家族効果の生成メカニズムを理解することの妥当性の検討という観点からデータの再分析を行った。その成果の一部は、研究業績欄に記載の著書の一部として刊行された。また、年度内には発刊されていないが、NFRJデータを用いて多世代効果に対する家族制度の影響を検討した論文、およびESSMデータを用いて、オジオバ効果の生じる理由を性差にも着目して検討した論文の2編を執筆した。いずれも2016年度内には発行される予定となっている。 また、「ソーシャルネットワーク」や「ソーシャルキャピタル」に関する研究テーマについて重要な研究業績を有する研究者の方々に声をかけて研究会を組織し、7月には東北大学において、11月には上智大学にて、計2回の研究会を開催した。そこでの研究報告やディスカッションを通じて、両概念に関する理解を深めるとともに、研究枠組や調査・分析方法等に関して、非常に多くの示唆を得た。それに基づいて今後の研究計画を修正するとともに、これらをふまえて新たに文献を追加してレビューを進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の研究実績にも記載の通り、当初の研究実施計画に則って、レビューおよびデータ分析を進め、3編の論文を執筆したこと、および、「ソーシャルネットワーク」と「ソーシャルキャピタル」に関する研究組織を立ち上げ、2回の研究会を実施できたことから、当初の予定通り順調に進んでいると判断できる。 3編の論文のうち、NFRJデータを用いた未刊行の論文においては、特に多世代効果に着目し、家族制度の影響という観点からだけでは把握しがたいことを明らかにした。これを受けて刊行された著書は、ソーシャルネットワークの観点から検討することの可能性について検討したものであり、本研究課題の中核となるアイディアについて実証的な根拠に基づきながら理論的な考察を行ったものと言える。一方、ESSMデータを用いた未刊行論文は、この基本アイディアについて試行的に実証的な検討を行ったものであり、拡大家族が、子どもに対する親の教育期待形成に影響するという理解の妥当性について、一定の支持を与える結果が得られている。このように、本研究課題の基本的な構想に沿って、着実かつ発展的に研究を進められている。 他方、重要な研究業績を残している複数の方々から協力を得て、2回の研究会を開催し、研究の理論的および実証的側面において、多くの有益な知見を得られたことからも、本研究課題を順調に遂行できていると判断することができる。この研究会を通じて得られた様々な知見のうち、本研究の今後の実施計画においてとりわけ重要なのは、ソーシャルネットワークの形成や現状の地域差について、理論的な基礎および調査の実施方法に関する具体的かつ有益な知見を得たことである。研究実施計画にも記載の通り、本研究課題では、地域による影響の差異も重要な観点の1つであるが、当初から明確なアプローチの方法が決まっていたわけではないため、この知見は大変に有益である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究実施計画通り、平成28年度は、前年度に行ったデータ分析や研究会の知見も参考にしながらレビューを継続し、それらの成果をふまえて研究枠組を設定するとともに、次年度に計画している本調査の実施準備を進めること(これには予備調査の実施を含む)が中心的な課題となる。 予備調査の実施においては、上述の通り、研究会で得た地域とソーシャルネットワークの関連に関する知見をふまえて、地域差の検討にとって有効な調査対象地域を選定することが大きな課題となる。この結果をふまえて、来年度の本調査も視野に入れた、調査設計を行う。 地域差を生み出す背景としては、当初、いわゆる都市度の違い、居住地の社会経済的・文化的特殊性、古くからの住民が多いか新参者が多いか、地域住民間の交流が多い地域か否か等を想定していた。これに関連して、これまでのレビューや上記の研究会を通じて、具体的な都市計画や地域開発の歴史的経緯(特に一括開発の有無や交通網の整備状況)、主な居住形態(団地・分譲・賃貸・戸建の別など)の分布状況といった地域のハードな環境特性と、コミュニティセンターや自治会組織による活動状況など人々の社会的な交流実態を捉える視点を考慮して、地域区分を行うことが有効だという知見を得た。 以上をふまえながら、さらにレビューを進めつつ、暫定的な調査設計について研究会において発表し、ソーシャルネットワークやソーシャルキャピタルに詳しい研究者からのアドバイスを得て予備調査の設計を行う。また、予備調査の結果をふまえて、地域類型の妥当性を中心に本調査の設計について再検討を行い、準備を進めることが主な課題となる。
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Causes of Carryover |
年度末に発注した物品が想定よりも安く購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の助成金と合わせて計画的に執行する。
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Research Products
(2 results)