2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K04408
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
喜多村 徹雄 群馬大学, 教育学部, 准教授 (60466688)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 鑑賞教育 / 地域資源 / 地域アートプロジェクト / 現代美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、二つの題材を開発した。 一つ目は、佐賀県小城市でNPO法人天山ものづくり塾と佐賀大学芸術地域デザイン学部が共催する「第15回 天山アートフェスタin小城」(平成28年7月22日~24日)で、小城市の歴史(地域資源)をモチーフにした現代美術作品を制作して出品・参加した。これは町史や関連文献を調査して明治初期から昭和期までの町の変遷を小説ベースで表現した作品であり、鑑賞行為を通して現在の町の景色に歴史を重ね知ることができる。「町史は読む気になれないが、これならば面白く知ることができる」「改めて我々がなすべきことを考えさせられた」という意見が寄せられた他、文献には記録されていない事実を詳細に教えてくれる鑑賞者も複数名いた。二つ目は、商業施設を美術館にコンバートした「アーツ前橋」(群馬県前橋市)で開催された「前橋の美術2017」(平成29年2月3日~2月26日)に、商業施設だった頃の歴史を調査した作品を制作して出品・参加した。現在の景色に歴史を重ね知ることが出来る点で小城と同傾向の題材である。当時を知る鑑賞者には、地域の出来事を他者に伝える機会となり、知らない鑑賞者には知る機会となった。また、子どもが保護者の記憶を伝達するなど、鑑賞者間での記憶の共有や会話が生まれ、コミュニケーションが誘発された。 二つの実践は、研究の目的「2.地域を学習する」「3.学習者(鑑賞者)は社会化するのか」を満たしており、美術館のない小城市での実践は「1. 美術館と同程度の鑑賞機会を創出できるのか」も満たしたと言える。 この実践の意義は、地域資源を活用した現代美術作品(鑑賞題材)を当該地域で鑑賞することを通して、地域を学習することが可能であること示したことである。また、モチーフの内容が鑑賞者を当事者へと変容させ、情報共有を元にした鑑賞者間でのコミュニケーションが発生したことは重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は「地域・地方で開催されるアートイベントという地域資源を活用して、美術館を利用して得られるのと同程度の鑑賞教育を実現する方法を研究・開発すること」である。平成28年度は、当初、平成27年度に中之条ビエンナーレと群馬大学教育学部美術教育講座、同附属特別支援学校との連携事業構築のプロセスおよび実践の記録を分析することに当てていたが、当該年度に終了した。平成28年度は、地域資源を活用した現代美術作品(題材)を開発し、「第15回 天山アートフェスタin小城」「前橋の美術2017」の二つの展示に参加する機会を得た。研究計画策定当初は、分析対象は一つの事業だったが三つのサンプルを得るに至っている。サンプルが増えたことで、目的を達成するための課題も明確になりつつある。 平成29年度は、授業題材を開発し実践する予定であり、既に協力校および授業担当教員が決定している。 上記理由から「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、地域資源を活用した授業題材を開発し実践する。平成27年度および平成28年度の実践を分析した結果、研究目的の効果が得られる場合と得られない場合があった。目的の効果が得られる場合は、対象(題材)に対する鑑賞者の当事者性の強弱が関係していることが判明している。このことから、研究開始当初は、地域・地方で開催されるアートイベントを活用することが望ましいと考えていたが、これを活用せずとも目的は達成される可能性が高い。したがって、平成29年度に予定していた中之条ビエンナーレ2017での鑑賞題材の開発ではなく、地元小学校で、当該地域の地域資源を活用した授業実践に変更する。その上で、当該地域の教員と連携して地域資源に着目した授業題材の開発を行う伴に、本学附属学校園教員による検討を加え実践する。
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Causes of Carryover |
「第15回 天山アートフェスタin小城」「前橋の美術2017」二つの題材を開発したことにより、当初の予想以上にエフォートが増大したことに加え、本務校での運営業務の多忙および煩雑化に伴い、各地で開催される地域アートプロジェクトへの調査日程を確保することができなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
地域資源が利活用されているアートプロジェクトおよび展覧会への調査旅費に使用するとともに、授業題材開発費用に充てる。
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