2016 Fiscal Year Research-status Report
学習者の実態調査に基づく左利き者に有用な書写教材及び授業開発に関する基礎的研究
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15K04419
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小林 比出代 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (10631187)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 左利き / 利き手 / 書字 / NIRS / 筆圧握圧 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の2年目にあたる2016年度は、書字行為に際しての利き手と脳活動との関係について脳活動の計測及び解析から検証を試みた。書写教育研究で初の試みである。具体的には、右利き者が右手で文字を書く場合と左手で文字を書く場合、及び左利き者が右手で文字を書く場合と左手で文字を書く場合では、脳が活性化する部位にどのような差異が生じるのか考察し、非利き手での書字行為の妥当性について推考した。また、NIRSでの解析に合わせ、筆圧握圧計測装置で、筆圧、握圧値、文字を書く所要時間も測定し、双方からの考察も試みた。 NIRSによる測定では、大脳皮質が持つ機能を勘案し、NIRSを用いて大脳皮質での血流量の変化を計測した。ただし、空間分解能は20~30mmにとどまることから、活動に伴っての大脳皮質の細かな部位の特定は行わないこととした。また、筆圧握圧計測装置を用いた測定では、右利き者と左利き者それぞれでの、利き手、非利き手各々を用いた書字行為時の運動データを、a.紙面にかかる筆圧 b.指にかかる把持圧 c.課題の書字に要した時間 d.定位置から撮影した画像データ の4点から分析した。なお、筆圧握圧計測装置を用いた測定の被験者は、右利きの健常大学生2名(R1とR2)、左利きの健常大学生3名(L1~L3)(※5名全員3年生(20~21歳) 女性)とした。NIRSによる測定の被験者は、右利き者R2、左利き者L2の各1名とした。
さらに、上記研究実績に並行して、社会的文化的な圧力の強さから左利き者の割合が少ないとされる日本に対し、他国では左利き者への書字教育に関してどのような指針を打ち出しているのか、具体的には、イギリスのナショナル・カリキュラム及び Handwriting の教師用指導書やテキストで左利きの児童への学習指導をどのように扱っているのか調査検証するために、現地に赴き文献を蒐集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画に掲げていた「左手書字者の実態調査及び右手書字者の場合との比較において、利き手と非利き手それぞれでの書字活動時における脳活動の差異を脳活動計測装置で計測することにより、特に書字行為に際しての利き手と脳活動との関係について検証し、非利き手での書字行為の妥当性に関して推考すること」について、限られた人数ではあるが、計画通り遂行できた。考察結果の概要を以下に示す。 NIRSによる実験結果から、利き手の別を問わず、利き手で書字活動を行った時の方が、右側頭部及び左側頭部の賦活が大きいことが明らかになった。ただし、前頭部については、非利き手で書いている時の方が、僅差ではあるがoxy-Hbが高くなる。一般の学習活動においては、無意識のうちに望ましい文字が書ける(望ましい文字が書けることが自動化している)方がよい。よって、通常の書字活動にあたっては、前頭部は活性化しない方がよいと考えられる。今回の実験のように、書写することに特化した単純作業において非利き手での書字活動時に前頭部が活発であることは、学習活動が有機的になされるためには理想的でない。このように、脳生理学、脳活動の観点から検証考察すると、非利き手での書字は望ましいものではないと推考できる。 本論考を通して、脳生理学からの科学的な根拠をもとに、書字に関しては「“右手”“左手”」といった概念ではなく、「“利き手”“非利き手”」との認識が不可欠であることは推考できる。これは、筆圧握圧計測装置による実験結果、すなわち、右利き者でも左利き者でも、非利き手では、書字活動において、筆圧、握圧、書字速度全てに関して難を伴う結果となったことからも明らかである。「右手」「左手」との捉え方ではなく、「利き手」「非利き手」との観念に基づいた書字及びその指導が重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
今回のデータは限られた人数によるものでありその実験結果について断定できないため、現段階ではあくまでも一事例からの推論とするに留める。今後はデータを増やし、実験結果の解釈の信憑性を高める必要がある。また、イギリスのナショナル・カリキュラム及び Handwriting の教師用指導書やテキストを詳細に分析し、イギリスにおける左利き者の書字学習指導の現状を把握するために、公立小学校の実地視察について検討する。
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Causes of Carryover |
頭部近赤外光計測装置を用いた測定と書字動作分析装置や筆圧握圧測定機器での測定を関連させた検証では、被験者数が多くなかったため謝礼が予定よりも低額となった。また、渡英の際に学校視察まで実施しなかったため旅費が予定より低額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
頭部近赤外光計測装置を用いた測定には、引き続き操作及び分析に関しての示唆が必要となるため、2017年度請求額と合わせて、研究協力者への謝礼、交通費に充てる。また、当該実験の被験者数を増やす必要があるため、その謝礼に充てる。あわせて、イギリスのナショナル・カリキュラム及び Handwriting の教師用指導書やテキストの検証においても、英語教育の専門知からの示唆が必要となるため、その謝礼に充てる。当該文献に関しては、さらに蒐集を続ける必要があり、その購入費にも充てる。
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Research Products
(2 results)