2017 Fiscal Year Research-status Report
学習者の実態調査に基づく左利き者に有用な書写教材及び授業開発に関する基礎的研究
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15K04419
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
小林 比出代 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (10631187)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 書写教育 / Handwriting / イギリス / ナショナルカリキュラム / 「1988年教育改革法」 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の3年目にあたる2017年度は、前年度(2016年度)イギリスに赴き蒐集した文献、具体的には、イギリスのナショナルカリキュラム及び Handwriting の教師用指導書やテキストに関する考察を深めた。研究結果は関係学会で口頭発表を行い、また、査読を経て学会誌への掲載が決定した。 戦後イギリスでの教育改革の集大成と目される「1988年教育改革法」は、現在イギリスで進めている教育改革の根底を規定したと考えられている。教育水準の向上を目指して今日も引き続き教育改革が行われる中で、2014年から現行のナショナルカリキュラムが施行された。当該の論考では、比較書字教育研究の一環として、まず今日に至るまでのイギリスのナショナルカリキュラムの変遷と特徴を概観し、次に、現行のナショナルカリキュラムと「1988年教育改革法」により導入されたナショナルカリキュラムとを比較して、現代のイギリスでは Handwriting の教育目標をどのように見据えているのか明らかにした。その上で、特に文字学習入門期の教材に着目し、現行のナショナルカリキュラムに準拠した Handwriting のテキストでの教材を約20年前の在り方と比較して、イギリスにおける Handwriting の教育の現況について考察した。当該の文献や教材の中には、左利きの児童への指導上の配慮がなされたり、利き手に関係なく用いることができる教材が提示されたりしている。なお、基礎学力を重視する観点から、国語力の体系的な育成を目指す点でイギリスと共通する、フランスでの学習指導要領及び Handwriting の教師用指導書やテキストでは、左利きの児童への学習指導をどのように扱っているのか調査検証するために、2017年度はフランスに赴き文献を収集した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該論考での比較分析から、現行のナショナルカリキュラム(以下「NC」と略記)に準拠した Handwriting のテキストにおける文字学習入門期の教材は、「1988年教育改革法」により導入されたNCに準拠した Handwriting の学習教材と同じく、字形や用筆法の系統性に則った「ノメクタ」式教材の形態をとるが、同時に、なぜこのような教材を扱うのかについて理解を促し、Handwriting に関する知識の定着を図る配慮もしていることが明らかになった。 さらに、現行のNCに準拠した Handwriting のテキストに関して特筆すべきは、現行のNCでの指針、即ち、基礎学力重視の観点から、国語力の体系的な育成を目指して国語の学習内容全体を包括的に扱う中で、Handwriting の学習もその一領域として位置づけるとの在り方が全般にわたって見られる点である。学校教育における学習内容を体系的に扱い、教科における系統的な知識を重視することで、主要教科での核となる知識を育成する。中でも、Handwriting の学習と発音の学習との強い連携は、現行のNCに準拠した Handwriting のテキストの大きな特色と考えられる。 日本の場合、文字学習入門期の教材に関して、一筆で書ける文字を第一教材に考える書写用教科書と、言語学習で音声的な部分の基礎となる母音を第一教材とする国語科用教科書との間に生じるズレを如何にすり合わせるかとの、教科書作成上(乃至は授業展開上)の配慮や工夫が求められる。現在のイギリスにおける、発音の学習と Handwriting の学習とを連携させるとのテキストの在り方は、文字体系や発音体系の違いはあれども、日本での、言語学習の中の音声的な部分と文字的な部分との両者を勘案して、双方の連携を図る教材設定の在り方を検討する上で参考にできる要素を包含しているように思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
現行のナショナルカリキュラムに準拠した Handwriting のテキストが日本の書写用教科書に示唆する具体的な要素を挙げるには、本拙稿で用いたテキスト以外の、現行のナショナルカリキュラムに準拠した Handwriting のテキストの考察も要する。本論考で当該テキストを分析対象のテキストに選んだのは、教科書検定制度がなく、授業で使用する教科書に政府が関与しないイギリスにおいて、世界最高の書籍数を誇るイギリス最大の書店で当該テキストの販売数が高いことは、学習者や指導者に与える影響が大きいことの一つの指標と推察したからである。当該テキストが有する特徴は、現行のナショナルカリキュラムに準拠した Handwriting のテキスト全てに共通する特徴なのかを検証する必要がある。また、本年度、文献上から明らかになったイギリスにおける書字学習指導の現状を把握するために、公立小学校の実地視察についての検討も要する。
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Causes of Carryover |
年度末に検索調査し購入を予定していた書籍は海外から取り寄せる必要があり、年度を跨ぐ形となるため、年度が改まるのを待ってから購入するようにした。 なお、フランスの学習指導要領及び Handwriting の教師用指導書やテキストの検証においては、フランス語教育の専門知からの示唆が必要となるため、その謝礼に充てる。また、日本をはじめ、イギリス、フランスでの当該文献に関しては、さらに蒐集を続ける必要があり、その購入費にも充てる。
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